出版社内容情報
一八世紀末、カリブ海の島で黒人たちが立ち上がり、自らの手で史上初の奴隷解放を達成した──長く忘却されてきたハイチ革命は、いまや近代史の一大画期だと認識されている。半世紀に及ぶ著者の研究をもとに、反レイシズム・反奴隷制・反植民地主義を掲げたこの革命と、苦難にみちた長いその後を、世界史的視座から叙述。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
81
ハイチの歴史をずっと追究してきた著者の研究をダイジェストしたような書で、まさに待ちかねていた内容。というのは、現在の高等学校の世界史や歴史総合では、ハイチの独立革命は必ず取り上げられているにもかかわらず、他の科目も含め、その後のハイチがなぜ世界最貧国に陥っていったかを明らかにしていないからだ。本書は革命を宗主国の革命の結果というより、そうした時代背景の中で黒人やムラートたちの蜂起という実力行使が革命へと導いたとする。もちろん独立のタイミングとジャコバン全盛期との一致という歴史的巡り合わせもあったわけだが。2023/08/30
樋口佳之
57
今では、すべての教科書が「ハイチの独立」を取り上げ…二〇二三年度大学入学共通テストの「世界史B」…「トゥサン゠ルヴェルチュールが指導するの独立運動に対して、彼…は軍を派遣して弾圧したにもかかわらず、フランスでは、現在でも人気が根強いように感じます」の文を示して、空欄の地域の位置を地図から選択する、という問題が出題され…/隔世を感じる変化ですし、世界史がより世界史である事に繋がるのだと思うのですが、一方、近代なんて欺瞞ばかりではというような受けとめに終始してしまう生徒さんもおられないかとちょっと心配かも。2024/03/18
サアベドラ
32
ハイチ革命とその影響をコンパクトに纏めた新書。2023年。著者の専門はフランス・ハイチの両革命史。黒人奴隷による史上初の共和国建設という栄光の過去を持つ一方で、天災や汚職により現在も世界最貧国の一つに数えられるハイチ。一見相反する2つの要素は実は繋がっていると著者は言う。独立の際に莫大な債務を押し付け、今もその過去から目を逸らし続けるフランス、厄介者の自国の黒人の追放先としてしかみなさず、裏庭として容赦なく軍事介入を繰り返してきたアメリカ。環太平洋革命の残酷な限界をまざまざと見せつけられる良書。2023/10/27
ピンガペンギン
23
1804年にフランスから独立してサン=ドマングはハイチ共和国となった。フランスは18世紀に砂糖・コーヒー(特に砂糖が重要)という植民地産品に、貿易黒字を生むのに依存していたこと。サン=ドマングの黒人奴隷の数は18世紀末に43万人以上に激増していた。フランス革命で奴隷解放宣言されたが、ナポレオンによって覆された。第4章は「帝国の裏庭で」として、アメリカとの関係性について詳しい。リンカーンは白人と黒人との混血を恐れて、黒人を送り返す、他所に追い出す(その中にハイチも入っていた)という政策を考えた。2024/07/22
鯖
23
世界に先駆け黒人奴隷の解放と彼らによる革命を成し遂げたハイチ。だが仏からの独立に際しては巨額の債務を押し付けられ、米からは邪魔な黒人の追放先として扱われ、幾度も軍事介入を繰り返され、現在のハイチは天災や汚職も相まって世界最貧国の一つとして存在する。米仏のクズっぷりが引き立つ。今現在同じことがパレスチナで繰り返されているようでひたすらに胸が痛む。2023/12/23