出版社内容情報
皇位継承者には成り得なかったにもかかわらず、藤原氏の奇計により即位した桓武天皇。長岡京、平安京への二度の遷都と、蝦夷との戦争を決断し、実弟・早良親王との骨肉の確執を乗り越えた多端な生涯を読み解く。血統に頼らず、政治的パフォーマンスに優れた「造作と軍事の天皇」の新たな実像と、日本古代史の転換点を描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
109
桓武天皇が奈良から京都へ遷都した背景には、皇位継承に絡む朝廷内の暗闘があったと見る。祖父が天智帝の猶子とされたため父は即位できたが、聖武帝の娘である皇后を女帝にする陰謀故に廃したおかげで桓武は皇位を継げた。しかし天智帝の系統であるのを理由に謀反が起きると、遷都により君主の権威確立を図った。皇太弟を廃除し、蝦夷と戦って東北を経営し、遣唐使を派遣したのもすべて政治的混乱の元凶である皇統=血脈問題を無意味にするためだったと。安定をもたらした桓武は確かに名君だったが、その生涯に1日たりと安寧の日はなかっただろう。2023/10/14
qwer0987
19
桓武天皇は自身の血統をずいぶん意識していたようだが、それは従来の解釈と違っている点が興味深い。桓武は自身を天智系だとみなしていたと思われていたが、実際は天武系との自覚を持ち、聖武天皇を天皇の鑑と見ていたようだ。ただ母が渡来系ということもあり母の顕彰にずいぶん力を入れている。また井上内親王への配慮は後ろめたさを見るよう。また早良皇子の立太子はその血統の弱さ故の補強であり、廃太子は平城京からの影響から逃れるためという視点は面白い。遷都に蝦夷制圧に遣唐使と結果を出した桓武はなかなかの人物である2024/08/27
崩紫サロメ
19
従来、桓武天皇は天武系から天智系への回帰と位置づけられる天皇であるが、本書は桓武帝が天武系、特に聖武天皇への敬愛と憧憬を抱いた天皇であることを説く。しかし、渡来系の母を持つ桓武帝にとってより強く聖武帝につらなる皇族は多く、彼らを排除した。また平城棄都=長岡遷都は遷宮を繰り返した聖武帝に連なる正統性の誇示であったと著者は捉えている。歴代天皇の中でも稀なほど政治的パフォーマンスを重んじた天皇として桓武天皇を描き直している。2023/09/07
さとうしん
16
桓武の血統と長岡京、平安京への遷都が話の中心。蝦夷征伐の話はやや控えめ。血統については祖父の施基皇子以来、擬制的な形でも「天武系」という意識を強く持っていたこと、また同時に父・光仁と自身の婚姻によって「聖武系」という意識も持っていたことを強調。この点は学界での評価が気になる所だが。政治的なパフォーマンスを好み、自身の権威向上のために蝦夷征伐を進めたとか、『続日本紀』の著述に介入したというあたりは、李世民など中国皇帝の姿を連想させる。2023/08/22
筑紫の國造
13
桓武天皇について、通説とは異なる著者の見解がかなり強く押し出されている評伝。かなりの部分、桓武天皇の血統関係について紙幅が割かれている。首肯できる部分ももちろんあるのだが、それにしてもかなり自説に近い解釈がなされている感は否めない。古代史はそもそも史料自体が少ないので仕方のないことかもしれないが、それを加味してもやや強引ではないかと思える部分が散見される。古代史の学会では、一体どのような評価がなされているのだろうか。2024/10/03
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