内容説明
名門大名家に生まれながら、市井で生涯を終えた、酒井抱一。「琳派」誕生を決定づけたこの才能は、多彩な交友から、宝井其角・尾形光琳への敬慕に至り、畢生の名作「夏秋草図屏風」をうみだした。江戸というマルチレイヤー社会を自在に往還したその軌跡を、俳諧と絵画の両面から丁寧に読み解く評伝。
目次
序章 画俳二つの世界
第1章 「抱一」になるまで―誕生前から出家前(酒井家という沃土―宝暦から安永期;尻焼猿人と美人画―天明期;春来への私寂―寛政前期;模索と学習―寛政中期)
第2章 市井のなかへ―出家から其角百回忌(隠者としての出家―寛政後期;文人性と琳派―享和年間;百花園という結節点―文化初年;其角百回忌―文化三年)
第3章 花開く文雅―文化四年から文化末年(花開く季節へ―文化初年から文化一二年;光琳百回忌―文化一二年;開花のとき―文化末年)
第4章 太平の「もののあはれ」―文政初年から臨終(錦の裏と表―文政二年まで;「夏秋草図屏風」の生成した場;豊穣の神々;「夏秋草図屏風」の両義性;追憶と回顧―最晩年)
著者等紹介
井田太郎[イダタロウ]
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士課程(日本文学専攻)単位取得退学。博士(文学)。国文学研究資料館助手、助教(いずれも任期付き)を経て、近畿大学文芸学部教授。専攻、日本文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
105
私は名前だけ知っていた人物です。この本は俳画の高名な人物論のようでその生涯や作品についてかなり踏み込んでというかち密に分析されています。新書版では読んでいてもったいない気がしました。カラフルな写真やそのほか本文でも数多くの絵が紹介されています。非常に読み応えのある本でした。実物をどこかの美術館で見たい気も起こりました。2019/11/05
umeko
16
抱一の俳諧の世界から絵画作品を観たら新たな発見があり、非常に興味深く読んだ。しかし、抱一の俳諧の内容がこんなにも難解だったとは驚きだった。前半は俳諧の知識が乏しい私には難しかったが、その分、後半にぐっと奥行が出て読んだかいがあった。面白かった。2019/10/06
アメヲトコ
7
姫路の酒井雅楽頭家という名門に生まれ、栄進のレースから外れて出家し、俳人そして琳派の画家として活躍した酒井抱一の評伝。かなり著者の力の入った一作で、決して読みやすいとは言えませんが、俳句の世界と絵画の世界、さらには謡曲や漢籍など、さまざまな文化が重なり合う構造が緻密に描かれます。とくに代表作「夏秋草図屏風」の読み解きは本書の白眉。2019/12/24
はちめ
7
著者自らが後書きで書いているように大変力の入った1冊になっている。いくら岩波新書でも、所詮は新書なのでもう少し軽くまとめてもらった方が読みやすいとも思うが、逆に十分読み応えのある1冊だともいえる。大名崩れの画家として知られている酒井抱一の実像に迫っていると思う。ただ、ちょっと不思議なのは、序章で酒井抱一の前半生を描いた第1章と第2章を考証が細かいので第3章、第4章の後に読んでほしいと書いていること。細かい考証も興味深く絶対順番に読んだ方が良い。☆☆☆☆2019/10/20
月猫夕霧/いのうえそう
6
江戸琳派の代表選手、酒井抱一の活動を時間軸で振り返ります、という本ではあるのですが、この本の珍しいところは絵画だけでなく俳諧も(というか俳諧の方をメインとして)記載しています。普段展覧会に行っても俳諧の話は出てきませんから、これだけ俳諧の話が出てくると新鮮だし、そもそも俳諧があまり得意でないので良く判らないな~と思いながら読んでおりました。それにしても、描いた絵の中にも俳諧が下敷きになっている作品が有るという指摘は新鮮でした。2022/05/30