出版社内容情報
なぜトランプ現象はアメリカを席巻し続けるのか。蔓延するポピュリズムは民主主義の異端か、それとも正統と化したのか――。キリスト教史の展開、丸山眞男らの議論を精緻に辿り、「正統と異端」のメカニズムから現代社会の深層に迫る。
内容説明
世界に蔓延するポピュリズム。はたしてそれは民主主義の異端なのか?古代中世の神学史、丸山眞男らの議論を手がかりに、宗教・政治・文化に通底する「異端発生のメカニズム」を解明し、混迷する時代の深層に迫る。著者が十年来抱えたテーマがここに結実、「異端好みの日本人」に、現代の「正統」の所在を問いかける―
目次
序章 正統の腐蝕―現代世界に共通の問いかけ
第1章 「異端好み」の日本人―丸山眞男を読む
第2章 正典が正統を作るのか
第3章 教義が正統を定めるのか
第4章 聖職者たちが正統を担うのか
第5章 異端の分類学―発生のメカニズムを追う
第6章 異端の熱力学―中世神学を手がかりに
第7章 形なきものに形を与える―正統の輪郭
第8章 退屈な組織と煌めく個人―精神史の伏流
終章 今日の正統と異端のかたち
著者等紹介
森本あんり[モリモトアンリ]
1956年神奈川県生まれ。プリンストン神学大学院博士課程修了(Ph.D.)。現在―国際基督教大学(ICU)学務副学長、同教授。専攻―神学・宗教学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえぽん
49
トランプ出現をきっかけに神学者が正統と異端の関係を宗教から政治に至るまで論じた作品。キリスト教史の分析を通じ、正典や教義が正統を定めるのではなく、正統は正典の形成に先行し、その発展過程で正典や教義に表現されるとする。キリスト教を含め、異端のうちあるものは異教に成長発展して新たな正統が成立し、正統と異端のせめぎ合いが繰り返される。報道機関、投票制度、司法制度など信憑性構造としての正統は社会に不可欠の文化的基盤とするが、全体の部分となる勇気を持ち、次の正統となり得る異端の到来を望む声は筆者に限られないだろう。2025/03/04
koji
38
本書の問題提起は、世界に蔓延するポピュリズムは民主主義の正統か異端か。言葉を定義すると、ポピュリズムは、特定の課題(雇用、移民等)毎に賛成か反対か一貫性なく立場を作っていくもの。正統は、社会全体に前提とされている信憑性の体系の中で人が信じている事。異端は、「自分こそ正統」という主張をもって取ってかわろうとする物。よってポピュリズムは正統でも異端でもなく、それが(正統・異端)気取りで跋扈するのは社会的バランスの崩れと分かりました。又社会を発展させるのは覚悟をもった真の異端の登場という著者の言葉に共感しました2021/10/16
Nobu A
28
「反知性主義」「不寛容論」に続き、森本あんり先生著書3冊目。18年刊行。「L正統」と「O正統」の二項対立で「正統」を説く。その対極に「異端」有り。一見単純明快で分かり易そうに映るが、相変わらず宗教学は晦渋な表現で難しい。しかし「聖典」と「正典」の違いや宗教=禁欲的だと思いがちだが違うこと等、勉強になった。終章「民主主義と歩ピュラリズム」がまとめになっているので一番分かり易く、成熟した民主主義に定義が難しいポピュリズムがどのように忍び寄り社会に影響を与えているのかが腹落ちした。でもね、やはり宗教学は難しい。2024/07/26
kan
27
宗教学について不勉強のため前半は難解だったが、後半で宗教社会学的思考を現代社会や政治に応用し分析がなされ、興味深く読んだ。宗教のレンズを通した価値観や歴史観の理解を深めないと世界の動向を追えないと改めて感じた。自由の具象化、自由とは本来的に備わっているものに従うこと、正統が失われた時の代替宗教としての体制批判とポピュリズム、米軍の信憑性構造および正統性とトランプの言動、暴力と差別の連鎖と信仰システムの崩壊の関係など、なるほどと思うところが多くあった。現代において真の異端の出現はあるだろうか。2023/01/24
Hiroh
25
「どこでも、いつでも、誰にでも、信じられてきたこと」こそが正統であり、聖典や教義はむしろそこから追認されてきた。例えば聖母マリア信仰は長い信仰の果てに1950年に被昇天が認められた。また、正統を担うのは大衆であり、正統は凡俗に宿る。厳格な思想や生き方はむしろ異端に見られる。現代の正統とも言えるイデオロギーや未来への信仰が今は失われている。異端とは正統に取って代わる覚悟を持ってものであり(キリスト教はユダヤ教の異端に始まる)現代には非正統はあっても異端はない。2020/08/25