出版社内容情報
二〇一七年春、司法が大きな一歩を踏み出した。福島原発事故における東京電力の刑事責任を問う初公判が開かれたのである。津波の予見は不可能とする被告の主張は真実なのか。未曽有の事故をめぐる一連の裁判をレポートする。
内容説明
二〇一七年春、司法が大きな一歩を踏み出した。福島原発事故における東京電力の刑事責任を問う初公判が開かれたのである。津波の予見は不可能とする被告の主張は真実なのか。各地で継続中の賠償訴訟とともに、裁判を通じて明らかにされたデータと証拠から、事故の原因をあらためて検証する。
目次
第1章 始まった裁判
第2章 2008年の「衝撃」
第3章 消された報告書
第4章 前橋地裁判決
第5章 科学の「不確実さ」、司法は裁けるか
第6章 残された課題
著者等紹介
添田孝史[ソエダタカシ]
1964年生まれ。大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了。サイエンスライター。1990年朝日新聞社入社、大津支局、学研都市支局を経て、大阪本社科学部、東京本社科学部などで科学・医療分野を担当。2011年に退社、以降フリーランス。1997年から原発と地震についての取材を続け、東電福島原発事故の国会事故調査委員会では協力調査員として津波分野の調査を担当した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
39
2017年6月、東電幹部の刑事責任を初めて問う裁判が始まった。福島第一原発事故から、実に6年以上が経過してのことだ。著者は、裁判の経過を詳細にレポートしながらも、裁判の焦点を整理し、ここに至るまでの経緯を震災以前に遡って取材する。そこで明らかになってきたのは、これまで国や東電や専門家達が何度も口を揃えて唱えて来た「想定外」という言葉が、想定外ではなかったという事実だ。2002年の政府地震本部の長期評価で、これまでの想定を超える巨大津波の可能性が公式発表され、(つづく)2018/02/26
skunk_c
31
刑事裁判一審で有罪が出た直後に上梓されたもの。政府サイドには常に原発の経済性や、コスト拡大を抑えようという姿勢が見られるが、それが事故の一因となっている。震災の10年近く前には、すでに防波堤越えの津波の可能性を国も東電も意識していながら、対策を先送りしている。「想定外」の嘘はすでに明らだが、日本の刑事訴訟制度が個人しか訴訟の対象にできない限界を感じる。もし原子力を今後も利用しようとするなら、2度と今回のようなことのないような慎重さが必要と思うが、最近の前がかりな再起動の動きは逆行しているように思える。2017/12/11
coolflat
23
東電は、直下地震や津波を想定していたにもかかわらず、対策を怠っていた。これらが『東電原発裁判』を通じて具体的に語られていく。福島第一原発のような古い原発の安全性を再検討するバックチェック作業は2009年6月に終える予定とされていた。あの保安院や原安委でさえ、2006年時点で「バックチェック期間3年は長い。保安院として対外的にこれが適切として説明することは難しい」と考えていた。ところが東電は、ずるずるとバックチェックを引き延ばし、事故当時は2016年まで勝手に先延ばししていた。これが事故の大きな要因となる。2018/11/05
jamko
16
〈「組織罰を問うことができれば、組織的なミスの構造を解明するため、原発事業に深く広く操作のメスを入れることもできたはずだ。個人の責任を問う捜査では、被告人に近い範囲に捜査が限定されてしまう。また、組織罰で会社の存亡に関わるほどの多額の罰金が科せられるという危機感があれば、JR福知山線事故や東電福島原発事故も防げたかもしれない」。組織罰を実現する会の事務局を務める津久井進弁護士はこう話している。〉もうこれに尽きるかなと思います。今の日本社会を立て直すのに一番必要なものは組織罰。2020/05/09
trazom
13
15.7mという津波予測があったにも拘らず、対応しなかった東京電力の不作為が鋭く追及される。同じ予測で東北電力女川原発は対策を実施したのに…。しかし、問題は、東北電力の対応すら公表させまいとする東電・資源エネルギー庁の姿勢ではないか。人間が、間違った判断や失敗を犯すことは避けられないが、そのことを嘘で塗り固めて隠そうとする姑息さこそ、最も卑しい。結果としての自分たちの過ちを真摯に認めるべきだし、社会自体も、感情的な責任追及ばかりでなく、事実を検証する冷静さを保ちたい。その意味で、著者の姿勢はフェアである。2018/01/25