出版社内容情報
「同級生」、ベストセラー、禅体験。綿密な考証にもとづいて二人の接点を解きほぐし、近代日本の思想課題を明らかにする。
内容説明
「同窓生」であり、ベストセラーの著者であり、禅に打ち込んだ。―これまで論じられることはなかったが、日本を代表する二人の知性の間には、多くの共通点がある。綿密な考証にもとづいて、かれらを包みこんでいた時代環境や知的ネットワークを解きほぐし、近代日本の思想課題を明らかにする、精神史的評伝。
目次
序章 西田はなぜ漱石に手紙を書いたのか
第1章 没落する家から生まれる独立の精神
第2章 人と知のネットワークのなかで
第3章 一生の宿題となった公案の問い
第4章 ベストセラーは何をもたらしたか
第5章 戦争時代のメンタリティ
第6章 内省を表現するとはどういうことか
著者等紹介
小林敏明[コバヤシトシアキ]
1948年岐阜県生まれ。1996年ベルリン自由大学宗教学研究所博士号取得。2006年よりライプツィヒ大学教授。専攻は哲学、精神病理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かふ
15
漱石と西田は3歳違いで明治の近代化の中で自己を模索し続けた。幼少期の家族関係の不和。娘の死。疑似家族的な家父長的な繋がり。戦争との関わり。漱石と幾多郎は同時代にと東京帝大(漱石は本科生、西田は選科生)で同じ哲学と心理学の先生に学んだ。心理学の元良勇次郎は心理学の草分け的存在で当時はまだ心理学はなかった。ウィリアム・ジェームズ(ヘンリー・ジェームズの兄)の「純粋経験」や「多元的宇宙」など。共に「禅」に対する影響。あとドイツ語か。漱石はドイツ語も出来たのか。ニーチェとか読んでいる。2019/10/15
どら猫さとっち
7
あの夏目漱石と西田幾太郎は接点や共通点があった!没落する家からの独立、「吾輩は猫である」「善の研究」というそれぞれのベストセラーがもたらしたもの、そして二人が知を通してたどり着いた境地は?明治時代を生き、格闘した二人の人生と知性をたどった一冊。文学と哲学が共鳴したとき、人生の大きな指針を二人は与えてくれた。この二人の存在は、今も大きい。2017/09/18
そうび
5
明治、それは政治も文化も言語も揺れ動いて「私とは何か」を日本が考え始めた時代。帝大の予科と専科の違いは知らんかった。二人と岩波書店にも強いつながりがあった。2023/04/22
田中峰和
5
漱石と幾多郎が巡り合う接点は帝国大学時代のみだが、本科と専科という大きな格差があった。彼らに共通するのは独立と反骨精神。漱石は後に博士号を拒否し、形式上の肩書から解放された自由な個人として生きることにこだわった。一方、西田は軍国主義に寄り添う学校改革に反発して四高を退学し、帝大では専科という悲哀を味わうことになった。その後二人が接近するのは参禅に訪れた円覚寺。時期はすれ違ったが、それぞれに公案を与えられている。漱石に与えられたのは「父母未生以前本来の面目」で、作品「門」にも描かれた。明治の精神が共鳴する。2017/09/06
amanon
3
漱石と西田…ほぼ同世代であり、一時は同じ学び舎に属し、少なからず共通の知人を持ちながらも、結局殆ど交わることがなかった二人。しかし、二人には同時代に生き、スタンスを異にしながらも、共に西洋及び時代と対峙してきた…その過程が生き生きと描かれている。また、それぞれが抱えた過程の事情や鬱屈というのは、様相を変えながらも、今の時代にも通じるもので、人間の営みというのは、結局そんなに変わらないのか?と思わせる。ただ、そこに潜む家父長制と、それといかに対峙したかという点で、様々な側面が見えて来るのがとりわけ興味深い。2017/08/04