出版社内容情報
クマ、シカ、サル等の鳥獣害が急増中だ。田畑を荒らし、時に人を襲い、近年は都市部にも現れる。なぜ増えたのか?各地の対策は?
内容説明
イノシシ、シカ、サル、クマなどによる鳥獣害が、全国で深刻化している。田畑を荒らして大きな経済的損失を与え、時には人を襲うこともある。近年は都市部にも現われている。なぜ増えたのか。各地の対策は。そして今後、どうなっていくのだろうか。農業経済の研究者が、みずから田畑を耕すなかで考察する。
目次
第1章 「田園回帰」のなかの鳥獣たち―害獣化する野生
第2章 街なかを闊歩する野生鳥獣
第3章 農村に跳梁する野生
第4章 鳥獣との闘いと苦悩―全国初の捕獲補助金交付の町
第5章 人と動物の共存への模索―各地域での実践
第6章 人は動物たちと、どう向きあってきたか
第7章 庶民の食の変容と動物たち
第8章 新たな動物観への展望
第9章 人と動物、共存の場所―形成均衡の世界へ
著者等紹介
祖田修[ソダオサム]
1939年島根県生まれ。京都大学農学部農林経済学科卒業。農学博士。農林省経済局、龍谷大学経済学部助教授、京都大学大学院農学研究科教授、放送大学客員教授、福井県立大学経済・経営学部教授、福井県立大学学長などを務める。専門は、農学原論、地域経済論。現在、京都大学名誉教授、福井県立大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
51
著者からは1997年度、農業簿記の研修会でお世話になった記憶がある。京大教授を退いてからは、中山間で畑仕事を始めたという。空き家も多い。S字カーブの連続と、必ずしも交通ルートは便利とは言えない。生活三分法:畑仕事-囲碁などの趣味-研究。半住民:夏場週2~3日、冬場週1日滞在で(6-7頁)。農業経済学者として身をもって体験したこと:鳥獣拡大、農業者高齢化、少量多品目生産で直売所急増した理由。一般の半値で多めに変えることから(19頁)。生活者目線の重要さ。2016/11/22
はじめさん
16
昨今街場にすら出没するようになった猪な鹿、里山を荒らす猿によって引き起こされる鳥獣害について描かれる。食べ物が足りなくて出てくるは間違い。森林飽和により、個体数は増えている。西洋で提唱された、動物の権利(感情があるので、恐怖を与えずに殺す事や、飼育する時は広いスペースで)や、仏教によってもたらされた殺生戒もまた、日本人が狩猟から農耕にシフトした一因であるなど、精神面での記述が多かった印象。/ 島根県瑞穂町が日本初の捕殺助成を行った。一頭につき3万。ちらっとさぬき市豊田地区の取り組みも紹介。(H28/2392016/09/10
roatsu
12
日本各地の野生動物による主に農業への被害について、自身の中山間地域における耕作経験と各種データを交えて提示する前半部分には改めて驚かされる。その後は洋の東西で人類が、そして日本人が古来より有し変遷させてきた動物・自然観の整理に始まり、今日の環境問題を踏まえて今後有すべき価値観を模索する深い考察。深刻な被害に苦しむ生産者とその先にある我々の食卓を考えれば早急な対処は必須だが、性急な判断の前に日本人が自然と向き合う際に自ずと抱く感情や思想はどう形成されてきたか、長い時間軸から捉え直すこともまた重要と感じる。2016/09/13
ふたば
7
農家と鳥獣との攻防から、環境破壊の現状にいたるまで、仔細に意見が提供されている。人間は、あまりに強大になりすぎた。もはや三丁目の夕日のあの時代に戻ることはできない。人間は、地球を破壊し、多くの生き物を絶滅させ、また危機にさらしたその反省をもって、環境を保全する義務を負う。これ以上の破壊を自ら律して、せめて現状を維持することを考えねばならない状態にある。それも、不可能に近い。問題は鳥獣害ではない。人害が問題なのである。2018/12/24
yamakujira
7
市街地のイノシシや、線路に侵入するシカも困るけれど、なにより中山間部での激しい鳥獣害が痛ましい。耕作放棄が増えているのは鳥獣害だけが理由じゃないとしても、田畑を害されて挫ける気持ちが悲しいね。対策としては緩衝地帯の設置がもっとも有効に見えるものの、費用面だけじゃなくて地形的な制約もあるんだろうな。そんな現状の解決策を期待していたら、後半は西洋と東洋の動物観の違いとか観念的な話になった。ダーウィンの自然淘汰論と今西錦司の環境適応論の対比など興味深いけれど、もっと現実的な提言が欲しかったな。 (★★★☆☆)2018/02/20