出版社内容情報
民主と独裁という相矛盾するかに見える二本の道を追い求めてやまなかった孫文の思想と生涯。
内容説明
中国で最も早く「専制王朝の打倒」と「民主共和国の樹立」を唱えた革命家は、その後、党による独裁的支配を提唱した。民主と独裁という相矛盾するかに見える二本の道がやがて出会い一つとなることを、奇妙なことに彼は信じてやまなかった。さながら二つの顔を持つヤヌス神のごとき相貌を示した孫文の思想と生涯。
目次
第1章 天は高く皇帝は遠し(帝国の片隅で;興中会;世界を味方に)
第2章 漂泊の預言者(弟たち;中国同盟会;橋頭堡を求めて)
第3章 千載一遇(地殻変動;辛亥革命;新紀元)
第4章 ヤヌスの誕生(うたかたの夢;中華革命党;孤高の領袖)
第5章 最後の挑戦(危うい橋頭堡;中国国民党改組;共和国の首都へ)
著者等紹介
深町英夫[フカマチヒデオ]
1966年東京生まれ。京都大学文学部哲学科美学専攻卒業、東京外国語大学大学院地域文化研究科博士後期課程修了(学術博士)。現在、中央大学経済学部教授。専攻―中国近代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Takayuki Oohashi
17
日本人とは?ということを時々考えます。この本を読んだのは、孫文という人そのものに興味があったというのもありますが、中国人から見た日本というのはどういうものか?ということに興味があったのもあります。宮崎滔天という日本人が出てきました。孫文と生涯にわたって良き友人だった人です。この本の全体を通じて、日本政府は孫文に冷淡だったのにも関わらず、日本の民間の人々は彼に好意的だったみたいです。孫文自身も日本の人たちに、明治維新は新生中国にとってアジアの先駆けになったとリップサービズかもしれませんが言っていたそうです。2016/08/28
skunk_c
16
『孫文革命文集』の編訳者がその豊富な知識を生かしてまとめた評伝。知名度の割には自身の権力志向は決して高いとは言えず、17年に及ぶ海外漂浪生活を繰り返していた革命家の、それこそ豹変する外交交渉や資金獲得の努力、同志の集合離散などを丹念に綴っている。辛亥革命の勃発をアメリカで知ると、ヨーロッパ、日本を回って中国入りし臨時大総統に就任するあたりが圧巻。しかしすでに袁世凱への禅譲は既定路線だったとは。「収」(中央集権指向)と「散」(地方分権指向)のバランスという政治力学の捉え方も分かりやすい。2016/09/14
ジュンジュン
11
清末民初を、「放」(遠心力)と「収」(求心力)のせめぎ合いと捉える。放とは地方分権を求める力(地方の独立)で、収とは中央集権を目指す力(中央の統制)の事。なるほど、分かり易い。では、孫文は?独裁志向の民主主義者。独裁と民主、二つの顔を持つヤヌス的存在。放に依存しながら、収を目指すから、いつも失敗する。おぉ、分かり易い。でも、文章は…読みにくい(😢)。2022/09/01
MUNEKAZ
10
孫文のコンパクトな評伝。近代中国を中央集権を目指す「収」の動きと、地方勢力の分裂を求める「放」の志向の相克と捉え、そのズレに現れたトリックスターとして孫文を紹介する。中華の回復という目的のためなら列強の介入も辞さぬ手段の選ばなさや、幾度も大陸に橋頭保を築くのに失敗しても折れない心など、革命家とはかくあるべしといった印象。そして「収」と「放」のせめぎあいの中で、彼が選択した「独裁志向の民主主義者」というヤヌスの仮面は、現代の中華世界をも規定しているのではないだろうか。2020/05/05
さとうしん
6
革命のトリックスターとして、また民主と独裁の二つの相い矛盾するものを求める「ヤヌス」のような革命家としての孫文を描く。辛亥革命以後の中国近代史を「放」(国内の諸勢力が分裂を求める動き)と「収」(中央政府が統一をはかる動き)のせめぎ合いと見る視点が面白い。この二つのせめぎ合いは現代中国でも続いているのではないか。中華人民共和国は経済は「社会主義市場経済」、政治体制は「中央集権連邦国家体制」により成り立っていると説明した方がよいのかもしれない。2016/07/26
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