内容説明
夏の暑さに豊作を願い、打ちこわし騒動に心を寄せ、大黒屋光太夫の帰国に反応し、「君が代」や「神国」日本を詠む。市井の営みをつぶさに見つめた一茶の句からは、外国船の出現に動揺し、国学に沸く激動の文化文政年間を生きる人びとの姿が浮かび上がる。「幕末維新を準備した」と言われるその時代を、近世史家が読み解く。
目次
1 時代を詠んだ俳諧師
2 学びの時代
3 江戸の場末の裏長屋
4 四国・九州・中国・上方へ
5 国学の隆盛と世直し願望
6 北方への関心、差別への眼差し
7 老いの生と性
著者等紹介
青木美智男[アオキミチオ]
1936年福島県生まれ。日本近世史。明治大学文学部卒業、東北大学大学院文学研究科修士課程修了。日本福祉大学教授を経て、専修大学教授。2007年定年退職。社会史・文化史を中心に、百姓一揆や民衆史の発掘、文学資料から歴史を読み解くなど、幅広い分野を考察対象とする。地域史の編纂等も手掛ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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i-miya
31
2013.10.20(読んだわけではありません、2013.10.20日経新聞読書、書評欄から) (評者=小林恭二、作家) (著者=青木美智男、1936生まれ、歴史学者、2013没) (見出=俳諧を通して時代を見る) 俳人小林一茶を生んだ文化文政時代、現代日本文化の雛形となる文化芸術の花開いた時代。 俳諧も面目一新、詩としての表現領域、飛躍的な拡大。 芭蕉、蕪村までの俳諧=研ぎ澄まされた美意識、披露。 一茶ら=何気ない生活風景、下層民の哀感、大胆な自己表現、社会批評。 2013/10/20
壱萬弐仟縁
22
メモ魔一茶(ⅰ頁)。俳人もアイディアは湧き出たらすぐに、記録しておく癖がついていたということ。現代では音声ならICレコーダーでもいいが、記録はとっておきたい。終生変わらぬ農民への畏敬(13頁~)。田植えの苦痛を緩和するため、女性の背後で、男衆が囃し、踊り、女も歌った。まさしく、田んぼの中の男女共同参画社会なのだった。一茶はもの凄い読書家でもあった(102頁)。彼はまた、大道芸人など社会の艱難に喘ぐ弱者たちの暮らしぶりも他人事とは思えなかったという(144頁)。ヒューマニスト。むさしのは不二と鰹に夜が明ぬ」2014/02/21
えも
17
一茶と言えば「やせ蛙…」や「雀の子…」など有名な句しか知らず、弱者に対し慈愛に満ちた眼差しを向けるお爺さんのイメージだったため、貧乏の中、世俗に生き、世俗の言葉で生涯二万以上の句を残した事実に驚きです。2014/01/27
たくのみ
16
馬、雀、やせ蛙…小動物に心を寄せる、ほのぼのとした俳句の達人だから和やかな性格、と思ったらとんでもない、強欲な遺産争い、22歳もの年の差婚、子供が4人、でも妻も子も早逝、貧困と失意の中で国粋主義にかぶれたり、打ちこわしに心痛めたり、ロシアからの帰国者の話を聞いたり…揺らぐ幕藩体制のなか、ぶれまくる一茶。2万句をこえる作品群の、さまざまな顔を知った時、「おらが春」の軽さがもつ「重み」が見えてくる。2013/11/01
しょうゆ
6
小林一茶といえば、蛙や雀などの小さな命に目を向け、素朴な庶民目線の俳句を作った人というイメージだったが、本書を読んでその人物像は崩れた。継母との折り合いが悪く奉公に出たり、財産相続でもめたり色々と苦労が多かったようだ。多作でメモ魔というのにも驚いた。(でも性交の回数はメモらなくてもいいと思う…。)あとは割と外国文化に対してマウント取りたがったり、日本万歳系の作品も多くて意外だった。2019/05/05