内容説明
言葉を愛した人・加藤周一は、生涯に膨大な書物を読み、書き、そして語り続けた。それはまた、動乱の二十世紀を生きぬきながら、これを深く問い、表現する生でもあった。その全体像はどのようなものだったか。同時代を生きてきた著者が、加藤の生涯をたどりつつ、我々の未来への歩みを支える力強い杖として、今ひとたび彼の言葉を読み直す。
目次
第1章 “観察者”の誕生
第2章 戦後の出発
第3章 “西洋見物”の土産
第4章 雑種文化論の時代
第5章 一九六〇年代―外からの視線
第6章 “日本的なもの”とは何か―“精神の開国”への問い
第7章 希望の灯をともす
著者等紹介
海老坂武[エビサカタケシ]
1934年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業、同大学院博士課程修了。一橋大学教授、関西学院大学教授を経て、現在は執筆に専念。専攻、フランス現代文学・思想(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬参仟縁
20
日本史Aの拙授業を担当していた時にご逝去されたことを思い出した。<戦争文化>という集団主義、大勢順応主義に反応した加藤氏(ⅱ頁)。わたくしも集団原理の頭高、そして、上官の命令は絶対だ、方式に馴染めなかった。だから消防は嫌いだった。彼には、戦争に<行かなかった>体験がある(30頁)。頭の悪い帝国主義者の愚劣な戦争、負け戦で死ぬことほど合理主義には耐えがたいのだ(31頁)。専制政治、封建制、天皇制への怒り(37頁~)。戦後日本の民主主義を雑種文化のうちに見出した(111頁)。単一民族観の中曽根康弘元首相に差。2014/01/20
Gatsby
14
加藤周一へのリスペクトを持ちながら、彼の著作についてかなり細かな部分に対して批判的な読み方もしているが、「はじめに」において、加藤氏の仕事を簡潔にまとめ、そこに十分なリスペクトが表れているので、その後の本篇が非常に読みやすい。著者は『羊の歌』『続 羊の歌』に対する思い入れが強く、自身の読み方までを詳しく説明している。さらに、『日本文学史序説』については特に評価が高い。これらの作品は高校時代に親父が買ってくれて、私自身わからないなりに何度も読んだ思い入れの強いものである。再読しようという気持ちが強くなった。2013/06/14
のり
10
加藤(1919~2008)はリベラルで知られる府立一中から一高・帝大へ。戦時下の青年期は原書主義の横溢な外国文学の摂取と古典への親近に過ごす。芸術の小宇宙が精神と知性の砦となったと海老坂はまとめるが、芸術と戦争の対置については星菫派批判(『1946』)に関する文学と行動ないし抵抗の問題、知識人の責任問題と合わせて慎重に考えたい。日本における戦中戦後の民主主義の不徹底さに疑問をもった加藤が、日本文化の特質=〈雑種性〉を鍵語に、大衆の層から〈われわれの政治〉を構築しようとしたことは今なお参照点となりえそうだ。2020/06/02
呼戯人
7
加藤周一が日本の羅針盤だったとき、日本はまだ安定していた。今のように極右が政権について、不安定な力の政治を展開する時に加藤周一が生きていたならば何を言っただろうか。これほど非専門家の専門家として、活躍した知識人は他に類例を見ない。20歳の頃、こんな風になりたいけど、絶対無理だなと思った。今の日本にこれほど必要とされる知識人は他にいないだろう。憲法集会で演説してもらいたかった。2015/06/17
Ikkoku-Kan Is Forever..!!
5
こういう入門書は、まずはじめに何も知らずに読む。そして、『著作集』に一通り目を通した後で再読すると、ゴチャゴチャした頭の整理になる。ありがとう、海老坂さん。2014/12/24