内容説明
栽培面積では全作物中、第四位のジャガイモ。南米で栽培種として誕生した後、どのようにして世界中に広がり、人々の暮らしにどんな影響を与えてきたのか。アンデスの農耕文化を中心に、四〇年にわたってヒマラヤ、アフリカ、ヨーロッパ、日本で調査を続けてきた著者が、ジャガイモと人間の関わりに秘められた歴史ドラマをつづる。
目次
はじめに ジャガイモと人間の壮大なドラマを追って
第1章 ジャガイモの誕生―野生種から栽培種へ
第2章 山岳文明を生んだジャガイモ―インカ帝国の農耕文化
第3章 「悪魔の植物」、ヨーロッパへ―飢饉と戦争
第4章 ヒマラヤの「ジャガイモ革命」―雲の上の畑で
第5章 日本人とジャガイモ―北国の保存技術
第6章 伝統と近代化のはざまで―インカの末裔たちとジャガイモ
終章 偏見をのりこえて―ジャガイモと人間の未来
著者等紹介
山本紀夫[ヤマモトノリオ]
1943年大阪市生まれ。国立民俗学博物館名誉教授。京都大学卒業。同大学院博士課程修了。農学博士。民俗学、民族植物学、山岳人類学を専攻。1976年より国立民族学博物館に勤務。1968年よりアンデス、アマゾン、ヒマラヤ、チベット、アフリカ高地などで主として先住民による環境利用の調査に従事。1984~87年には国際ポテトセンター客員研究員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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修一朗
108
自分もインカ文明の発展に寄与した食物はトウモロコシだと思っていた。実はジャガイモだったのだ!アンデスのフィールドワーク中にチューニョ加工に気づいたという研究の経緯が滅法面白い。4章のヒマラヤとシェルパとジャガイモの関係も興味深い。3,5章は既存の話をかき集めただけで御本人の関与ゼロ,オリジナル情報の方が全然いい。酒の原料で儀礼に使われたトウモロコシはスペインの記録にも残りやすかったし,決定的な証拠はC3/C4植物分析まで待たなければならなかったというフィールドワーク&文献調査の限界も実感した。面白かった!2020/09/08
Aya Murakami
72
県立図書館本。 インカからヨーロッパ、チベット、日本へと渡ったジャガイモのきた道。日本における救荒食物はジャガイモよりもサツマイモのイメージが強かったのですが、それは私が西日本住だったからだそうです。ジャガイモはアンデスの冷涼な気候育ちでどちらかというと寒冷地向き。そしてやはりというべきか「イモなんか食って文明ができるか」とおしかりの声っもあったそうな。戦中世代、ウチの亡くなった祖父(父方)はジャガイモよりもサツマイモを毛嫌いしていました。コーンヘッドなるものがあるそうですが、ポテトヘッドはどうなのか?2024/09/03
桜もち
65
ジャガイモは南米のアンデス高地が原産。メークインも男爵も元は同じ。小麦やトウモロコシを抑えてジャガイモこそがインカ帝国を支えていた。が、ヨーロッパに入っても長くイモは軽視されていた。毒があるとか聖書に出てこない作物だからという理由で。貢献の割に冷遇されてきたイモだが、戦争や飢饉、凶作を救う作物という事で各地で栽培されるようになったという。ジャガイモの知られざる歴史が分かった。日本の食料自給率の低さ(東京はわずか1%)と世界の飢餓地域での食糧危機にも対応できうるジャガイモを、もっと重視せねば。2017/03/04
翔亀
45
【始原へ55】アンデス植物学/民族学者のジャガイモ愛に溢れる小著。アンデス文明は穀物ではなくジャガイモが支えたという独自の文明論を展開した「ジャガイモとインカ帝国」(2004)と、アンデスとネパール・ヒマラヤのフィールド調査「雲の上で暮らす」(2006)をベースに、アンデス原産のジャガイモがどのようにヨーロッパや日本に普及したかを加えて、将来の食糧危機への備えを訴える。人類の将来の食糧確保のためには、単位面積当たりの収穫カロリーも多く、土壌水分の利用効率も高く、肥料の吸収力も高いジャガイモが理想的だと↓2021/09/20
ホークス
44
2008年刊。生物と民族の研究者が、ジャガイモと人との関わりを丹念に追う。原産は南米アンデス山脈。インカ帝国などの文明は、高地で育つジャガイモに支えられた。欧州では幾つもの国が主食にする。アイルランドなど百年で人口倍増だが、芋の病気による飢饉で米国に大量移民する事態も起きた。ネパール山岳部ではトウガラシと共に主食として根づき、江戸時代の日本では重要な救荒作物。ジャガイモは寒冷地を好み、痩せた土地でも育つ。太陽エネルギーの効率が高いらしい。日本人の消費量は少ない方だから、食べ方をまだ工夫できそう。2022/09/15