内容説明
近代の理念と現代社会との葛藤をみすえつつ、理性とリベラル・デモクラシーへの信念を貫き通した丸山眞男。戦前から戦後への時代の変転の中で、彼はどう生き、何を問題としたのか。丸山につきまとうできあいの像を取り払い、のこされた言葉とじかに対話しながら、その思索と人間にせまる評伝風思想案内。
目次
序章 思想の運命
第1章 「大正ッ子」のおいたち
第2章 「政治化」の時代に
第3章 戦中と戦後の間
第4章 「戦後民主主義」の構想
第5章 人間と政治、そして伝統
終章 封印は花やかに
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
97
丸山眞男についての評伝です。ただ日本政治思想の先生が書かれているせいか、丸山の若いころからのことがきめ細かにつづられていて新書の割には読みごたえがありました。丸山眞男全集や対談集もかなり読んできたこともあってすんなり読むことができきました。最近はあまり丸山を読む人は少なくなったのでしょうが、私の年代の人はかなりその謦咳に接してきたと思われます。これを読んでから「日本の思想」や「現代政治の思想と行動」などを手に取られるといいかもしれません。2024/07/20
寛生
43
再読。これを読めば、早早容易く丸山を「エリート知識人」なんてよべない事が分かる。もし「あなたは、丸山が味わった孤独、悲しみ、葛藤に耐えれるか」と私自身が訊かれたとしたら、Noと応えるしかないのではないか。「ふるさとを持たない」インテリとあるが、僕的に英訳すると'Intellectual in Exile'となるかもしれない。それは例えば丸山が古典を読む事によってその時代の事象から意識的に距離を保とうとする努力にも見られるだろう。〈私〉は〈知識人〉なのか、それとも〈一市民〉として闘うべきなのか。2014/03/06
おさむ
33
実はよく知らない(著書も本格的には読んでいない)丸山眞男の評伝を読む。旧制高校時代の逮捕拘留とその後の特高警察の監視経験、30歳になっての軍隊体験と被曝などエリート学者の知られざる苦難を知った。そこから政治への徹底的な絶望と不信が生まれた。だからこそ顔が見える小さな集団で、日頃から政治や社会、文化の問題を討議し、自主的な批判力と積極的な公共精神を養う事が大切と説くのだろう。仕事の合間に政府の動きを監視する、政治を目的としない人々の活動こそが民主主義を活性化させる。共感できる部分が多い良書でした。2018/12/15
くまさん
30
学術的な批判はともかく、教科書で強く印象に残っている「日本の思想」の著者がおしゃべり好きで温かい人柄であることは、かつてNHK・Eテレのすぐれたドキュメンタリーを見て以来想像していた。生い立ちからアカデミズムの頂点に上りつめるまでの過程 、また学生と衝突しても自分を貫き通す生き方は、それ自体で作品である。政策提言で国家にコミットするのではなく、市民を相手に思考を語りかける姿勢も伝わってきて好ましい。個々人の「他者感覚」にこそ民主的な社会を作り出し主体的に生きていく手がかりがあるとの洞察はあまりにも深い。2018/12/24
いろは
22
丸山眞男が、戦後知識人としてどのような人物であったか。または、丸山眞男の生まれてから死ぬまでの歴史よりも、私が生まれた一九九四(平成六)年が、ちょうど終戦五十周年という節目の貴重な年であったとか、私の母が生まれた一九六八(昭和四十三)年は大学紛争のさなかであったというところが印象的だった。そして、残念なことに、丸山眞男と、また、著者である苅部直と、この作品を通じて対話できなかった。それは、やっぱり教科書にはない日本の歴史を知らないからだと痛感する。いや、お恥ずかしながら、教科書にある日本の歴史も知らない。2018/10/05