出版社内容情報
近代以降,労働には喜びが内在すると考えられてきた.だが,労働の喜びとは他者から承認されたいという欲望が充足するときである.承認欲望は人間を競争へと駆り立てる.労働文明の転換を提起する,社会思想史的考察.
内容説明
一日のかなりの時間をわれわれは労働に費やす。近代以降、労働には喜びが内在し、働くことが人間の本質であると考えられてきた。しかし、労働の喜びとは他者から承認されたいという欲望が充足されるときである。承認を求める欲望は人間を熾烈な競争へと駆り立てる。労働中心主義文明からの転換を、近代の労働観の検討から提起する。
目次
第1章 アルカイックな労働経験(古代ギリシアの労働観;アルカイックな社会の労働観)
第2章 初期近代の宗教倫理と労働(貧民の監禁と教育;「貧しい人々」と「人間の屑」 ほか)
第3章 現代の労働経験(労働者の証言;ドマンの解釈と「労働の喜び」論 ほか)
第4章 労働と対他欲望(対他欲望;承認欲望のメカニズム ほか)
第5章 労働文明の転換(余暇の無為から多忙な勤勉へ;勤勉労働への懐疑 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆう。
33
著者は、労働中心主義的人間観に疑問を投げかけ、労働が人間の発達にとって重要であるということ、労働が人間の本質であるということに疑問を投げかけている。そして、余暇の可能性について問題提起をしている。マルクスが論じたように資本主義社会の中では労働疎外があり、「過労死」という言葉は国際語となるように労働は人間性をも否定する側面を持つのは事実である。しかし、著者が投げかける疑問は、労働を狭く捉えすぎていると思う。労働は本来的には人間発達の根幹にかかわるものであり、労働と余暇は対立するものではないと僕は思うのだが。2017/11/19
テツ
24
労働に喜びはない。本当にその通り。別に労働なんかにアイデンティティやら自己実現を見出す必要なんてこれっぽっちもない。何のために働く?メシ代と遊興費を稼ぐために決まってんじゃねえか。やりがいとか楽しさとかそりゃあった方が良いけれど、仕事って本来は生きるために必要な賃金を稼ぐためだけの行為だということを忘れちゃいけない。余暇や自由時間を削られたりましてや精神をやられてしまうなんていうのは言語道断だ。仕事関係で悩み苦しむ若者にこそ読んで欲しい。2018/07/11
さり
9
否定から入るのが多い。ニートで彼女に言われたことがわかる。 パノプティコンの例えで労働は個人レベルではなくて、国レベルから働きかけてる部分に趣を置いた。2023/03/15
NICK
8
仕事を通して自己実現!であるとか仕事こそ人間のあるべき姿!とかよく耳にする。この本はそうした労働に喜びや人間の本質が内在しているという言説の欺瞞を暴く痛快な内容。貧困者の強制労働のための規律としてキリスト教倫理が用いられたのを皮切りに、労働に喜びが内在しているという思想がほとんど自明のものとされていったという。労働による自己形成などというのは近代という歴史的状況から産まれた考えであり、自明でもなんでもない。……だが、現代社会には労働を神格化する言説がどれほど溢れていることか。就活生は必読かもしれない2015/07/22
ハチアカデミー
6
B 産業革命以降の労働観がどのように形成されてきたのかを追った論考。プロ倫的なキリスト教の価値観が、労働という本来隷属的なものに価値をつけ、勤勉こそ美徳であるという倫理を作り上げる。そして、産業革命によって生まれた労働者たちは、その価値観のもとに、労働に意義ややりがいを感じるようになる。そこから、なぜ、人々がその心性を受け入れることが出来たのかを考究している点が本書の白眉。いわく、「他者に承認されたい」という人間の根源的な欲望を満たすために、労働が受け入れられてきたのだと。労働ポトラッチという概念も面白い2012/01/24