出版社内容情報
戦前,革新官僚として満州国の産業開発を主導,東条内閣の商工大臣を務めた岸信介は,A級戦犯容疑者とされながら政界復帰を果たし,首相の座に就いて安保改定を強行,退陣後も改憲をめざして隠然たる力をふるった.その九○年の生涯と時代との交錯を生前の長時間インタビュー,未公開の巣鴨獄中日記や米側資料を駆使して見事に描く.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mitei
264
本書はタイトルの通り岸信介について書かれた1冊。意外に総理退陣の後も長命だったので自民党にも影響を与え続けてたんだなと知った。戦前は満州、戦後は戦犯指定からの総理とすごい人物だなと思った。2015/12/30
Tomoichi
24
岩波新書でなければもっと早く手にとっていたのだが、岩波なのに真っ当な「岸信介」を描くノンフィクション。工藤美代子の作品に比べるとあっさり系ですが、あとがきにあるように元々は岸による安保改定について書かれた本の延長なので、巣鴨から出所以後については読み応えがある。工藤の作品と合わせて読むをお勧めします。サブタイトルの「権勢の政治家」は岩波的で嫌な感じ。いい作品なのに。。。2017/05/11
coolflat
20
戦前から戦後まで。満州国~東条政権、自民党結党~日米安保改正まで。岸の人生を通じた昭和史とも言える。岸の思想的基盤は、儒教的、日本主義的な価値体系を基盤とする反動的国粋主義の上杉慎吉、国家改造論と体外膨張論を一体化させた国家社会主義の北一輝、体外膨張論を思想的に正当化した大アジア主義の大川周明、この3人によって形成された。岸の田中角栄評。岸は角栄を「やはり教養が足りない。柄が悪いね。総理ということになると、人間的な教養が必要だ」と評した。角栄を晋三に変えても話が通じる。なぜ岸はこれを孫に伝えなかったのか。2016/04/29
ぽんくまそ
13
岸信介がおぞましい。しかし安倍晋三を知るには祖父の信介を直視する必要がある。それで工藤美代子による評伝を読んでいる途中だが、工藤版より薄いこの本を見つけたので先に読み通した。すると工藤版・原版どちらでも、読みながら志を切磋する苦労人岸がむしろあっぱれに見えてくる。もちろん満州人不在の満州国でいくら活躍しようがそれは罪なのだが。極論に走らず有能であり、その有能さはドイツなどで鍛え上げたものなのだ。17P写真の読書熱心な少年がどうして妖怪になってしまったのか。悪の根幹は民衆を国家の下に置くパワーゲームなのだ。2019/09/07
こういち
13
大東亜戦争の真っ只中にその政権の中枢に座した政治家「岸信介」は、戦後A級戦犯被疑者として巣鴨拘置所に3年半拘留されるも政界に復帰し、我が国の総理大臣として安保改定を果たす。凄まじい経歴だ。執念を超えた先の理想を持ち続けた、究極の政治家と言える。されど彼を持ってしても果たせなかった憲法改正は、いまだ日本の〝真の独立〟を阻んでいる。戦争は避けなければならない、けれども未だ紛争が消えぬのも事実。70年前、米国占領下に置かれた歴史の現実から目を背けては明日は語れない。2015/07/23