出版社内容情報
維新の最大の功労者,西郷はなぜ反乱をおこしたのか.またなぜ,復権されるのか.根強い民衆的人気の秘密は何か.その実像をさぐるには,西郷が打倒しようとした明治政府権力の性格こそ検討されなければならない.気鋭の近代史家が,幕末動乱から征韓論争,西南戦争にいたる,西郷の栄光と悲劇の意味を読み解いていく.
内容説明
西郷隆盛はなぜ反乱をおこしたのか。またなぜ、復権されるのか。幕末動乱から征韓論争、西南戦争にいたる西郷の軌跡をたどり、さらに死後の評価までを射程に入れて、西郷の悲劇の意味を読み解いていく。ときの明治政府権力である「有司専制」との対抗関係を主軸に、新たな西郷像を提示し、日本近代国家の成立過程と特質を考える意欲作。
目次
序章 巨星墜つ―西郷の死と伝説化の過程
1 幕末動乱の主役として
2 「有司専制」の成立
3 征韓論争
4 西南戦争
終章 国家構想の交錯―日本近代史上の西郷
著者等紹介
猪飼隆明[イカイタカアキ]
1944年福井県武生市に生まれる。1969年京都大学文学部卒業。専攻は日本近代史。大阪大学大学院文学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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coolflat
17
やがて西南戦争に至る盟友大久保との対立は、天皇親政に対する考えの違いからくるものだということがよくわかった。西郷は、天皇を核にナショナリズムを収斂させ、「有司専制」が打破されて天皇親政(立憲的形態を許容しながらも、限りなく天皇専制に近い国家形態)が実現することを考えた。それに対し大久保は、天皇を権威の源泉としてのみ捉えた。天皇の権威を利用することで支配体制を維持しようとする有司専制のあり方であり、西郷にとってはとうてい許しうるものではなかった。この西郷と大久保の根本矛盾が西南戦争へと至らしめたわけである。2018/09/01
yamahiko
13
西郷さんの行動原理を大胆に推理。岩波文庫にしては一歩踏み込んだ内容で、少し緻密さには欠ける印象を受けましたが面白く読めました。2017/10/22
owlsoul
9
明治維新における近代化の過程において、藩への帰属意識が強い者ほど新たな秩序への反発は強かった。早々に藩と決別し近代官僚への道を突き進んだ大久保利通とは対照的に、西郷隆盛は島津斉彬への忠義を生涯持ち続け、藩士たちと共にあり続けた。その生き様は文学的には美談であるが、現実世界では悲劇の引き金ともなっている。三島由紀夫にも共通する危険性を孕んだ美学。日本における近代化の是非はともかくとして、今日の我々をも惹きつける西郷隆盛の魅力の裏には、男性特有の強いタナトス(死への欲動)が隠されていることは意識しておきたい。2025/04/19
マーブル
6
大政奉還、版籍奉還、廃藩置県、岩倉使節団、西南戦争。 子供の日本史の教科書を引っ張りだして見てみると、幕末から明治の激動とも言える時期も、ほんの数ページに、主だった項目が並んでいるだけ。 本書を読んで、その行間に、みっちりと繰り広げられた日本国家の大揺れの様が、わずかながらも実感する事ができ、随分と収穫だった。 作者は前出している西郷に関する著作、考察を再考するつもりで書いているせいか、世間が持っている大枠の知識は省略しているようだ。不勉強な私には、入門編を読む必要もありそうだ。 2018/03/06
ジュンジュン
5
禁門の変、江戸城無血開城、征韓論、西南戦争とインパクトは強烈だが、あらためて生涯を追いかけてみると、歴史の表舞台で活躍した時期が意外と短い事に驚く。また、心情を吐露した記録も少なく、歴史のベールに包まれて実像がぼやけている印象だ。常に政局の中心にいて詳細な日記を遺した大久保利通とは実に対照的。分かりにくいゆえに、研究者によっていろんな評価が成り立つのだろう。さて本書の解釈(征韓論→下野→西南戦争への分析)には納得できる。征韓論論争を対有司専制と捉え、敗北後士族反乱と自由民権に分かれたという分析は魅力的。2019/10/12
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