出版社内容情報
一九七九年にマーガレット・サッチャーが首相の座について以来,イギリスはどのように変わりつつあるか.経済・防衛から教育・福祉まで,「利潤」と「効率」の旗をかかげる“鉄の宰相”は,この国に何をもたらしたのか.激しい変化をロンドン大学教授として現地で見すえてきた著者が『イギリスと日本』(正・続)以来久々に問う,鮮やかな分析.
内容説明
1979年にマーガレット・サッチャーが首相の座について以来、イギリスはどのように変わりつつあるか。経済・防衛から教育・福祉まで、「利潤」と「効率」の旗をかかげる“鉄の宰相”は、この国に何をもたらしたのか。激しい変化をロンドン大学教授として現地で見すえてきた著者が『イギリスと日本』(正・続)以来久々に問う、鮮やかな分析。
目次
1 党首、マニフェスト、選挙―英首相の強大な力の背景
2 歴史の車輪を逆転させる女―サッチャーの「信仰復興」(リバイバル)
3 荒れ狂う「反福祉主義(サッチャリズム)」の嵐―悔しかったら頑張りなさい
4 歴史の大河の中で―戦後、挫折、ヨーロッパ化
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
肉尊
71
「鉄の女」と称されるサッチャーは、勤勉と質素を美徳とするピュリタニズム教育と、徹底した合理主義が政治信条の背景にある。本書では、資本主義の発展がその内部崩壊を招くという視点から、サッチャリズムがシュンペーター理論における反革命と位置付けている。大企業はやがて官僚機構と化し、社会主義的傾向を示すというものである。彼女が求心力を取り戻せたのはフォークランド紛争における冷徹無慈悲な即決判断であり、英国病の劣等意識を払拭するためと著者は分析している。初の女性首相という観点での議論の不在は政策優先の英国気風を表す。2023/01/02
高橋 橘苑
6
これは強烈な反サッチャリズムの書である。高名な経済学者らしいが、初読なのでまだまだ自分の中での評価は控えたい。シュンペーターの理論をベースにした革命論を基に、「ビクトリア時代に帰れ」と主張するサッチャーを、歴史の車輪を逆転させる女と断罪する。台頭する敗戦国日本やドイツに対して、イギリス人は没落する戦勝国の挫折を感じていた。フォークランド戦争におけるサッチャー人気と「反福祉主義(サッチャリズム)」を歴史の徒花とまで言えるのだろうか。今年逝去したサッチャーの評価はイギリス本国でも大きく分かれているという。2013/12/08
楽毅
5
本書は、サッチャー政治を分析しているが、驚くほど現在の国際社会を予見した内容になっていた。新自由主義とナショナリズムの促進が、それまでの社会を分断し、格差を助長させた点は、現在のアメリカやヨーロッパで起きている事態と全く異ならない。EU離脱も、サッチャーが推進した民族主義の帰結であることを考えると、イギリスの歩みが、今後の国際社会の行方と重なると思わざるを得なかった。それまで、強いリーダーシップで世界を変えたサッチャーに敬意を感じてきたが、少なからず見方が変わった。森島氏の慧眼には、改めて敬服した。2017/03/14
脳疣沼
4
部分的に現下の日本(あるいは小泉政権時)の状況と似ているが、経済政策がかなり異る。サッチャーは金融引き締めにより、ポンドを急騰させ、製造業を窒息させて金融業を発展させた。それにより失業率が高まったが、インフレ率は下がった。産業構造の転換に成功したわけだ。著者はサッチャーが大嫌いな人で、サッチャーやウォルタースに対する人格攻撃は冷静さを欠いているが、まあその激情っぷりが面白いというのはある。結果的には著者のような批判者と戦いながら、イギリス経済を復活させたサッチャーの手腕はやはり評価されるべきなんだろう。2016/09/06
読書履歴
3
1988年刊。Ⅰは当時のイギリスと日本の政党観の違いと二大政党制及び、各政党がイデオロギー政党から国民政党へと移行しつつあった当時の状況を語る。Ⅱは主にシュンペーターの官僚機構化論と併せて、サッチャーが、それとは逆向きの「ビクトリア時代に帰れ」を掲げ、巻き戻し始めたことを説明。また起死回生となったフォークランド紛争の実情についても解説。Ⅲは経済政策上の問題を数値で明示。Ⅳはシュンペーターが理論の中で見落としていた点を指摘した上で、長期的な観点からサッチャーの「効率化」路線がもたらす弊害を批判して結ぶ。2013/11/02




