出版社内容情報
お岩の幽霊で知られる『東海道四谷怪談』が初演されたのは文政八年,幕藩制がその土台から腐りはじめ,あらゆる既成の秩序が崩れていく時代であった.鶴屋南北は,この崩壊期のエネルギーを,忠臣蔵のパロディの形をとって描き出した.悪意と哄笑,猥雑と醜悪の織りなす南北のドラマ世界から,崩壊期の精神とその可能性を読みとる.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
瓜坊
23
化政の頃は世のあらゆる価値観の崩壊期で、そんな無秩序で価値が拡散してゆく時代の混沌を鶴屋南北は歌舞伎の世界で表現した。作為的な無秩序。舞台上の人物への焦点が脇役に及び、その時その場にあってならないものが平然と侵入し、生と死の境界線がぼやける。そしてこの『東海道四谷怪談』は『忠臣蔵』の裏の世界である。忠義の美ではなく、不忠不義のグロテスクさの極致。四谷怪談をこの崩壊期のエネルギーが噴出したものという見方で分析する本。四谷怪談ってただただ悲惨な怪談だと思っていたのでこんなに諧謔に満ちたものだと思わなかった。2018/08/30
たいけい
4
2021/07/29(木)の七尾演劇鑑賞会第138回例会劇団前進座公演「東海道四谷怪談」に先立ち読んだ。忠臣蔵を背景にして作った歌舞伎狂言「東海道四谷怪談」に込めた鶴屋南北の意図や狙いを見事に読み解いている。猥雑・滑稽・グロテスクと顔にかかれたドラマの二部構成。著者は後者を先に書いたようだ。ただの幽霊話でなく既存の社会体制が面白ければ何でもありとなっていく中で、いかにかぶいて見せたかを述べている。例会を見る時の注目点を教えてもらえたと思う。続いて岩波文庫版「東海道四谷怪談」を読んでから例会に臨もうと思う。2021/07/26
つな子
2
南北が用意した猥雑な仕掛けについて。喜劇としての要素がふんだんにあるのだぞ、と。メモ。2019/04/04
風竜胆
2
四谷怪談についての魅力や、見どころ、その裏にある精神などを分かりやすく伝えている良い入門書となっているばかりでなく、鶴屋南北という歌舞伎作家と彼の作品についての入門書ともなっている。2011/08/15
mutu-bird
1
本書を読んでから講談や落語の音声を漁っている。いよいよ歌舞伎でみたいかも。2024/02/19