出版社内容情報
廃坑と眠るボタ山――坑夫たちは失業し,一家は路頭に迷う.筆者は,裸の労働者として生きようという情熱から,京大を中退して炭鉱にとびこみ,採炭夫や掘進夫として筑豊のヤマを転々とした.大資本のクッションとして,常に苛酷な奴隷労働と飢餓生活に苦しめられている絶望的な中小炭鉱の極限状況を追究した異色のドキュメント.
内容説明
廃坑と眠るボタ山―坑夫たちは失業し一家は路頭に迷う。筆者は、裸の労働者として生きようという情熱から、京大を中退して炭鉱にとびこみ、採炭夫や掘進夫として筑豊の小ヤマを転々とした。大手資本のクッションとして、常に過酷な奴隷労働と飢餓生活に苦しめられている絶望的な中小炭鉱の極限状況を内面から追究した異色のドキュメント。
目次
1 下罪人
2 追われ流れて
3 底幽霊
著者等紹介
上野英信[ウエノヒデノブ]
1923‐1987年(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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michel
16
★4.0。石牟礼道子さん、上野英信さん、まるで同士かのよう。文学者として、ただ一人の人間として、絶望感に寄り添い、絶望感に筆を走らせる。ただ彼らの声を聞かねばならぬ、ただ彼らの魂を書かねばならぬ。炭鉱で骨の髄まで消費し尽くされ、やがて廃棄され、行き場のない悲惨な状態に追い込められた坑夫たちの心に寄り添う。以前、著者の息子の上野朱さん『父を焼く』がとても良くて、ぜひ上野英信著書を読んでみたかった。当たり前なのだが、全く文章が異なる。とにかく彼の絶望感と憤りが、冷静ではあるが熱い感傷的美文で表された名著。2020/02/07
ちあき
11
『地の底の笑い話』に先立つこと7年前に同じ岩波新書から刊行された本。労働者たちからの聞き書きがもとになっている点は共通するが、戦後に入っても坑内環境・労使関係ともに劣悪な中小規模のヤマ、そしてそこに巣食う貧困についてのストレートな語りが中心である。フォークロアの世界に昇華することのできない「この世の地獄」が描かれている印象すら受ける。こういう書物を読むたびに、「ひとまずはその前に立ちすくむしかない」事実や歴史というものがたしかに存在することを体感する。まずは立ちすくめ。あるいはひざまずけ。話はそれからだ。2013/05/28
よしじ乃輔
9
1960年発刊。64年前の著者自ら筑豊の炭鉱で働き書き上げた炭鉱労働ルポ、と簡単に言ってしまえない。安全基準など全くない労働条件と賃金未払により会社側に消費されつくされ、斜陽産業となり閉山し追われていった抗夫とその家族たち。「この世の地獄」と巻頭で老婆が零した言葉が全頁に綴られている本、悲しいけど貴重な記録でもあります。2024/05/11
gachi_folk
7
「貧乏をしにこの世にでてきたようなものです」 一番方出勤する坑夫たちの声なき声が聞こえる。 そして黒い飢餓の谷間で暮らす彼らの苦悶を知る。 労働者階級問題は今なお進行中の闇だ。2018/08/24
niki
5
ひたすら暗いルポ。「飢えにたえること、餓死を一日先におしやること、ただそのことだけのために彼らは生きなければならぬ」賃金不払いの違法な中小炭鉱。辞めさせてくれない、逃げられない恐怖。 老坑夫は何を質問しても「この世のもんじゃなか」としか答えない。この男の人生は何だったのだろう。 騙されてやって来る彼らについて筆者は「絶対的な飢餓と貧困が人間の思考の一切をねじふせて、最後の動物的な生存のための少しでもいい条件の穴へと追い込んでゆく」と説く。1960年初版の本だが、現代の貧困の構造と同じではないだろうか。2023/12/08