出版社内容情報
人は歴史を作る.そしてより以上に危機は人を作る――藩の兵学師範への道を歩んでいた一青年の前に,アヘン戦争に象徴されるヨーロッパ列強のアジア進攻と,その圧力によって増幅され混迷の度を深めていく幕藩制社会の姿があった.三十歳で刑場に果てた松陰の思想と行動が,時代と人間精神との壮絶な対決として現代によみがえる.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
23
父百合助は、貧苦の生活の中に生い立った人(4頁)。山鹿流の学問が、農耕をともにしながら聞く教えには、学問は形式のものではならぬきびしい事実を告げていた(7頁)。封建経済の基礎は自給自足の農民経済(14頁)。人は政治家と同時に思想家。思想家と同時に政治家であれねばならない(35頁)。松陰も歎いたごとく読むべき書物は汗牛もただならぬほど。学科は無数に枝を広げている。読書に暮れても、一生は、いくばくの書を読破しうるであろうか(50頁~)。2015/08/14
ABC殺人事件
3
衝撃を受けた。こんな日本人が幕末に存在していたことに畏敬の念を感じる。どうすれば彼のように生きられるのか考える必要がある。2013/01/05
Ikkoku-Kan Is Forever..!!
3
感動を覚えるのは、これが昭和26年出版の戦後最初の松陰本だということだ。奈良本先生は後書で「時代と人間との対決を身をもって悩みつつある私は、松陰の時代に生きた生き方の失敗と真実の中に」多くを見出し松陰を書いたと言う。田中彰先生は「奈良本松陰」を「戦争に敗れた日本、敗者としての日本と松陰を重ね合わせ、権力による死罪にかかわらず、自らの理念に生きようとした松陰の再生のエネルギーを、占領下、再び立ち上がろうとする日本に託そうとした」物だと言うが、松陰伝を通して、それが書かれた時代を感じられることは大変刺激的だ。2012/01/21
denz
3
徳富蘇峰『吉田松陰』の戦後版として書くという意識があらわれた伝記。松陰自身というよりも、松陰が現われてくる前提としての時代相に焦点を合わせ、「革命家」松陰の思想を描く。占領下という時代に書いたものらしく、西欧と、また大商人と結びつく幕府=日本政府という視点を暗示させ、松陰の政治家になりきれない「祖国愛」に燃える一青年として幕末と占領時代を重ねあわせえいる。2011/11/02
n-shun1
2
幕末は薩摩藩関係者は割と知っているが長州藩関係者をはじめそれ以外に親しむ機会がなかったので,吉田松陰にしても一般的イメージでしか認識していなかった。松陰に関する本もさまざまアプローチがあると思われるが,この本は神格化された松陰(教育者や革命家)ではなく,松陰が紆余曲折を経て安政の大獄に散っていくしかなかったことを語っている。松陰には冷静さに欠けるところが散見されるが,それは思索ではなく実践に意味を見いだしたからなのだろう。その意味で死してなお影響を及ぼすのは,松陰の本望か。2020/07/13