出版社内容情報
世界中の人びとがユダヤ人に対して抱いている偏見は,実に古くかつ根強い.サルトルは,まったく新しい観点から,数々の具体的事実をあげて,この根深い偏見の源をつきとめ,ユダヤ人問題の本質をはじめて明らかにした.たんにユダヤ人問題のみならず,今日の人種問題に対して正しい解決の方途を示唆した画期的な書.
内容説明
世界中の人びとがユダヤ人に対して抱いている偏見は、実に古くかつ根強い。サルトルは、まったく新しい観点から、数々の具体的事実をあげて、この根深い偏見の源をつきとめ、ユダヤ人問題の本質をはじめて明らかにした。たんにユダヤ人問題のみならず、今日の人種問題に対して正しい解決の方途を示唆した画期的な書。
目次
1 なぜユダヤ人を嫌うのか(ユダヤ人を嫌うのは自由だろうか;嫌う理由があるのだろうか ほか)
2 ユダヤ人と「民主主義」(抽象的民主主義の弱味;抽象的人間と具体的ユダヤ人 ほか)
3 ユダヤ人とはなにか(人間の違いは、その状況と選択による;ユダヤ人の状況、人種、宗教、国家、歴史 ほか)
4 ユダヤ人問題はわれわれの問題だ(真の敵は反ユダヤ主義者;われわれの目標は具体的な自由主義 ほか)
著者等紹介
安堂信也[アンドウシンヤ]
1927年東京に生まれる。1951年早稲田大学文学部卒業。1952‐54年ソルボンヌ大学文学部留学。専攻はフランス演劇史。現在、早稲田大学文学部教授
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
masawo
13
「シチュアシオン」の観点からユダヤ人を分析・定義し、反ユダヤ主義の矛盾をこれでもかと炙り出す。昨今のヘイトスピーチなどの人種問題に通じる部分は大いにあると思う。ただ最後の最後で意外な結論に繋がっていくので「そうきたか」と意表を突かれた感は否めない。2019/11/27
テツ
8
サルトルによるユダヤ人考察。ユダヤ人が迫害される構図と、彼ら&彼女らを迫害する側の意識がサルトルの言葉で浮き彫りにされている。反ユダヤ的なものだけではなくありとあらゆる迫害の構図にこれは当てはまるんだろうな。過去だけの問題ではなく現代社会に蔓延るおよそ全ての差別問題の根幹に関わる何かが描かれている。様々な問題提起の果てに社会主義革命を呼びかけるあたりがサルトルらしい。ただイスラエルの昨今のやり口(ガザ空爆など)を目の当たりにしていると、ヒューマニズムという考えでどこまで世界を保てるのかという疑問は残る。2015/07/25
Haruka Fukuhara
7
原著の問題と翻訳の問題があってあまり優れた本とは思わなかったけど、歴史的な著作としては興味深かった。反ユダヤ的言説(反ユダヤ主義)を言論の自由の範疇に含まれないと位置付けた点で、いわゆるヘイトスピーチ論の走りということになるのか。日本語版で付された見出しがあまり本文に合っていないように感じた。内容は反・反ユダヤ主義の一色で、ユダヤ人についてもユダヤ教についてもほとんど触れていないのでユダヤ人というタイトルも違う気がする。原著はReflexions sur la question juive (1954)2017/03/10
原玉幸子
6
サルトルの(自身は「考察」と述べていますが)ユダヤ人に関わるエッセーです。色々な角度からユダヤ人を哲学的な切り口で語っていますが、反ユダヤ主義を指して、(著者引用の)黒人作家のリチャード・ライトの言う「米国には、黒人問題は存在しない。あるのは白人問題だ」と同義で語ることで、全てを包含している気がします。前期推奨の『レイシズム』然り、大陸的に遠い=実感のない、日本人のユダヤ人問題への論考は、翻って、朝鮮人差別や、被差別部落と天皇制の抱える問題を意識することが起点になるでしょう。(◎2020年・冬)2020/11/06
ぽりま
6
表題を一瞥すると、ユダヤ人の歴史について述べた本であるように思えるが、本書は、二十世紀前半のフランスにおけるユダヤ人問題の構造を分析した書。同問題の原因は、ユダヤ人を槍玉に上げ、社会に対する不満の原因を直視して解決策を考える責任を放棄した加害者側に存在している。ユダヤ人問題と同じ構造を有する問題は、現代社会にも存在する。移民問題やヘイト、いじめの問題がそれだと思う。本書が現在も広く読まれ続けているのは、ユダヤ人問題にとどまらず、多くの社会的問題を分析するのに必要な視座を提供しているからに他ならない。2019/08/09