出版社内容情報
アダム・スミスは,『国富論∥諸国民の富』の著者として,また自由放任主義の経済学の祖として,そのイメージが確立している.しかし,それは古いスミス観である.彼の生きた時代と思想形成の過程をたどりつつ,近代化とナショナリズムという,まさに現代に通ずる視点からスミス像を描き,『国富論』の読み方までわかりやすく説く.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
125
先日アダム・スミスについては、佐伯さんの本を読んだのですが、これはNHKの10回の文化講義で話されたものをまとめられています。昔はこのような内容でも聞いてくれたのでしょうが(しかも10回)、今はどうなのでしょうか?アダム・スミスの生涯や、その「国富論」の内容、その与えた影響などについて非常にわかりやすい言葉で説明されています。大学入学直後の学生にはぜひ読んでもらいたい1冊です。2016/01/26
ヤギ郎
13
アダム・スミスから「学問」を発見した!スミスの生い立ちから出発し、現在では古典と呼ばれる『国富論』を読み解いていく。日本におけるスミスの理解について時代と共に変化してきた。現在では教科書に載る有名人として国民の多くが知っている(筆者はこの現象を教養の質的深まりを伴っていないという)。筆者はスミスにナショナリズムの読み方を示している。日本人(日本語)の「ナショナリズム」。古典について「古典はそれ自体として永遠の価値をもっている。」(181)、「古典を生かすのは現代であり、私たち自身である。」(同)。良書。2019/02/24
Francis
7
10数年ぶりに再読。アダム・スミスの生涯、思想がコンパクトにまとめられている。アダム・スミスは近代化、すなわち市民社会化の闘士であり、彼の自由主義思想、経済思想はそのために生まれた、とする著者の考えに共感。アダム・スミスなんて所詮過去の人じゃん、と言われそうだが、まだ近代化を果たしたと言い難いこの日本でアダム・スミスの真の姿を知る意義はまだ大いにあると言えよう。2014/08/02
Mealla0v0
5
1968年刊行当時のアダム・スミスのイメージは自由放任の始祖。これに対し、高島は『国富論』の前提に『道徳感情論』を置くと同時に、経済ナショナリストとしてのスミスを打ち出す。イギリス経済を発展せしめ(近代化=産業化)、経済社会たる市民社会の形成に貢献した人物、これが高島のスミス像である。放縦な自由放任ではなく、国民国家(国家ではなく国民国家)に枠づけられた自由こそが市民社会の条件である。そして高島は、このスミスを、戦後日本批判の源泉に置くのである。2022/07/30
Hiroshi
5
国富論の著者であり自由放任主義の経済学の祖としてのイメージがあるアダム・スミス。国富論を別の彼の著書である道徳感情論の一部とみなして読むことにより新たなスミス像を生み出そうとした本。1968年の発行で、2017年にアンコール復刊された。アダム・スミス(1723年~1790年)は18世紀の人。イギリスは17世紀に清教徒革命・名誉革命を経て絶対主義的な秩序から資本主義的な秩序への過渡期であり、18世紀は60年代からの産業革命、76年のアメリカ独立戦争、89年のフランス革命という歴史的大事件が起きた世紀だった。2022/05/19