出版社内容情報
独創的な思想を起ち上げた哲人は、実人生では苦しみと悲哀の渦中を生きた。家族の死と病気、子供、親族への想い、大拙を始め、旧友との生涯に渉る交情、大学の同僚、門下に示した配慮と学問への厳しい姿勢、戦時下での国難への批判を書簡により伝えた書簡の中で、率直、明快な言葉で自己の想いを語り、その素顔を見せる。西田幾多郎の書簡を精選する。
内容説明
西田幾多郎は日本ではじめて独創的な哲学を起ち上げた人である。しかし実人生では多くの苦しみや悲哀を経験した。書簡の中で西田はその思いを率直に語っている。また鈴木大拙をはじめとする旧友との交流や、門下生に対するあふれる愛情、戦時下の政治への直截な批判などを記した文章のなかに、われわれは人間・西田幾多郎を見る。
目次
第1部 学びの時期―研究者への歩み
第2部 西田哲学の構築―京都大学時代
第3部 思索のさらなる展開―退職後の思想と交流
第4部 時代の流れのなかで―一哲学者の晩年
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
9
21歳から75歳に至る321の書簡を4部に分けた本書では、人間関係が学問から政治へ広がりその哲学も激動する歴史に開かれる背景に、著者の故郷での学問的閉塞から京大時代の西田哲学の構築、退職後の動向と戦時の葛藤が浮かび上がる。後半では鈴木大拙、和辻哲郎や林達夫や袂を分つ田辺元への私信があり、戦時には東條英機に読まれる前提の佐藤賢了宛の大東和共栄圏に関する書簡がある。そこでの著者は言語中心の民族でなく各地域伝統の「特殊性」における世界を統合を課題と捉え、カント的な道徳を超える各宗教の共同性に目を向けるよう促す。2025/01/16
Mentyu
4
21歳から死の直前まで西田幾多郎の書簡を322本収録している。「22年生きてきたけど、もう犬死にするしかない」と言っている最初の書簡から、敗戦を前にした最後の書簡まで、西田のそのままの姿が記録されている。より良い生とは何かという若い時からの疑問と、禅への傾倒。壮年期になると幾度も訪れる我が子の死、さらには妻にも先立たれ、精神的にかなりしんどそうな生活を送っていたことが伺える。2020/12/07