出版社内容情報
関東大震災後、朝鮮人の恋人と共に検束、大逆罪で死刑宣告された金子文子(1903-26)。無籍者として育ち、周囲の大人たちから虐げられ続けながらも、「私自身を生きる」ことを諦めなかったその言葉は、社会で苦しむ者すべてへの励ましである。(解説=山田昭次)
内容説明
関東大震災後、朝鮮人の恋人と共に検束、大逆罪で死刑宣告された金子文子(一九〇三‐二六)。無籍者として育ち、周囲の大人に虐げられ続けながらも、どん底の体験から社会を捉え、「私自身」を生き続けた迫力の自伝を残す。天皇の名による恩赦を受けず、獄中で縊死。
目次
手記の初めに
父
母
小林の生れ故郷
母の実家
新しい家
芙江
岩下家
朝鮮での私の生活
村に還る〔ほか〕
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
lily
152
光る魂を前にして、これほど残酷な境遇の中で力強く生きた人は聞いた事がない。確固たる思想と究極の愛に命を賭けた。金子文子と朴烈に恐れるものはもう何も無かった。この自伝を読んでしまうと現代の自伝で義に説けるものは何も現れないと思われるほど、痺れるだろう。心底勧めたい一冊に出逢った。映画と共に。2020/01/15
藤月はな(灯れ松明の火)
86
関東大震災後、朝鮮人と恋人であり、天皇制を批判的に皮肉ったとして拘束され、獄中で命を自ら、断った一人の女性がいた。彼女の名は金子文子。彼女は人との巡りあわせが余りにも悪かった。彼女の祖母や両親は地獄に堕ちてもおかしくない程、自分勝手過ぎる人物で母方の叔父は処女厨のなまぐさ坊主だし。でも彼女は周りから虐められたけど、負けなかった。自分の事をいじけていると卑下しているが、私から見ると虐げられる朝鮮人の高さんを思いやり、鄭氏やユキちゃんを愛せる、克己心と独立心、人への愛に富んだ素敵な女性だ。彼女が愛おしいと思う2018/03/28
TakaUP48
75
ブレディみかこ氏の「ぼくイエ~ホワブルー2」の中で、「塩辛きめざし…」という短歌を詠んだふみ子の卓越した世界観に驚いた。獄中で自死した彼女に興味を持ち、この本を手に。無国籍が故にまともな扱いを受けなかった幼少期。10才で朝鮮に渡り、学校どころか女中以下の待遇・壮絶な虐待を受け、自殺を考えるが「死んではならぬ」と決行せず。日本に戻り、様々な職に就きながら苦学生活をし、「犬コロ」の詩を書いた朴烈に強烈に心引かれる。騙され、虐げられてきた不平等な生活。朴との積極的なふみ子の交際は、本当の心の安らぎを得たのだ。2021/12/30
yumiha
52
『女たちのテロル』(ブレイディみかこ)を読み、もっと知りたくなった。なんと!読み易い現代仮名遣いに改められていたので一安心。読み終えて、ブレイディみかこが描いた金子文子とは違う印象を抱いた。今ならば児童虐待で訴えられそうな幼児期や少女期を過ごした文子。その中で大人や社会の論理の非情や不合理を人一倍感じていただろう。どうあがいても抜け出せない貧乏の連鎖。「依頼心が強い」と文子が批判非難し続けてきた母きくのも、そういう社会の被害者だと思う。そこに留まらざるを得なかった母と突き抜け(させられ?)た娘と思った。2020/10/05
やいっち
46
1923年の関東大震災で、朝鮮人らが誹謗されるなか、ついに彼女夫婦は逮捕(治安維持法で)され、そこでの審判を受けるということは、死刑確実とされる大審院へ。夫のほうは天皇の恩赦を受け入れるが、彼女は転向を拒否する。彼女は獄中で死ぬほどの恐怖を味わい、麻縄で首を括って自殺。当年23歳。断固として自らの意志で生きようとした。それだけに当時の封建的な親を始め親戚たちとも周囲の人々ともぶつかり続けた。現代だって、こんな生き方は珍しいだろう。2018/10/06