内容説明
明治以降の日本のナショナリズムは、なぜ超国家主義へと突き進んだのか?敗戦の翌年、日本軍国主義の精神構造に真っ向から対峙し、丸山の名を高めた表題作。他に、冷戦下でのマルクス主義とマッカーシズムについてなど、著者の原点たる戦後約一〇年の論考を集成。
目次
1 日本のファシズム(超国家主義の論理と心理;日本ファシズムの思想と運動;軍国支配者の精神形態)
2 戦後世界の革命と反動(ファシズムの現代的状況;E.ハーバート・ノーマンを悼む;「スターリン批判」における政治の論理;反動の概念―ひとつの思想史的接近)
3 現代世界への基礎視角(ナショナリズム・軍国主義・ファシズム;現代文明と政治の動向)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
cockroach's garten
35
戦中時代の日本ファシズムを分析し、無謀な戦争へと突き進んだ原因は「無責任の体系」にあると論じた丸山眞男。彼の思想はもはや古びた思想なのだろうか。心地のよい言葉と、画一的な組織化をされた社会。どんな行動にも「責任」が伴うが、場の空気を席巻した雰囲気に同調するということにも当然個々人に「責任」はある。賛同出来ようがそうでなかろうが、ある意味デモが起こるということは、社会の画一化を防ぐ行動であるとこの本を読んで思った。2020/12/30
chanvesa
22
ナチスの自覚の上での悪と言った議論はアーレントの『イスラエルのアイヒマン』とは異なる。ドイツを持ち上げ過ぎかと思う。しかし、「既成事実への屈服であり他の一つは権限への逃避」(169頁「軍国支配者の精神形態」)を柱とした【無責任の体系】の指摘は、今でも日本社会に根深く存在していることにうんざりする。これらの論文で、責任を問われること自体が一消費対象としてのニュースに成り下がるような、大衆社会爛熟期の精神構造を予見できないのは当然だが、無責任の体系は今やある種の諦念へ進化しているのかもしれない。2017/10/14
masabi
21
丸山真男の初期論考集。ファシズム体制の制度や体制よりも指導者や中核を担った人物の心理を追っていくことに特徴がある。無責任の体系、空気に従う国民性、抑圧移譲の原理など氏のファシズム理解を考える上で必須の概念が登場する。自分の意見を表立って言わずに世論の意見として発言したり、責任逃れをしたりと主体性の欠如が顕著となったことに対して十分な議論がなされなかったために、今でも歴史問題が時折遡上に上るのだろうか。次は本店たる日本政治思想史を当たる。2016/07/26
ミッキー・ダック
21
初期の論文集。本と同名の論文(1946)及び「軍国支配者の精神形態」(1949)が重要。急速な近代化の必要上、西洋とは違い宗教権威と政治権力が一体化、私的領域が国家秩序に包摂され、天皇の権威を盾に上層部が下に圧力を懸ける「抑圧移譲」構造が形成された。実際の軍事方針を作ったのは右翼に感化された下層官僚で、右翼や軍人によるテロが内閣や議会を無力化して軍部の暴走が始まった。一方東京裁判に於いて、支配層は「上の命令に従っただけ」と責任逃れ。この「無責任体系」はM.ウェーバーのいう「官僚精神」によると指摘。 2016/05/28
猫丸
18
ファシズム生成の構造をさぐる論考など9篇を集めた。アカデミックな仕事の余技に位置付けられそうな内容である。踏み込みが甘い、などとの批判はあるだろうが、丸山本人が過度の踏み込みを自制しているのだから仕方がない。いくら一兵卒として従軍した過去があろうとも、境遇によって大衆と同化することはできない。大衆であったことも、大衆であろうとしたこともない。これは我々とても同断で、書物を読むことを生活の一部とする人が「大衆の中へ」と意気込んでも詮無いことだ。やはり思考の射程は本書のいう亜インテリ層が限界なのだと思う。2020/11/07