出版社内容情報
「あの医者よ。」海辺に立つ一軒家。シューベルトの四重奏曲から逃げ続ける女主人公パウリナが不意の客人の声に探りあてたものとは何だったのか。それぞれの過去を抱えた三人が息詰まる密室劇をおりなす。平和を装う恐怖、真実と責任追及、国家暴力の闇という人類の今日的アポリアを撃つ、チリ発・傑作戯曲の新訳。
内容説明
「あの医者よ。」海辺の一軒家。シューベルトから逃げ続ける女主人公が不意の客人の声に探りあてたものとは。息詰まる密室劇の姿を借り、平和を装う恐怖、真実と責任追及、国家暴力の闇という人類の今日的アポリアを撃つ、チリ発・傑作戯曲の新訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
53
内容案内:「「あの医者よ。」海辺に立つ一軒家。シューベルトの四重奏曲から逃げ続ける女主人公パウリナが不意の客人の声に探りあてたものとは何だったのか。それぞれの過去を抱えた三人が息詰まる密室劇をおりなす。平和を装う恐怖、真実と責任追及、国家暴力の闇という人類の今日的アポリアを撃つ、チリ発・傑作戯曲の新訳」2025/01/28
みつ
34
戯曲の表題は、自作歌曲の一部を第二楽章の変奏曲に用いたシューベルトの弦楽四重奏曲第14番(整理番号では、D810)を指す。「シューベルトから逃げ続ける女主人公」と表紙にある本当の意味は、戯曲の始まりから程なく明かされる。登場人物は他に、以前に拷問にかけ強姦したと彼女が確信する医師、夫で前政権下の弾圧を調査する法律家の計3人のみ。場所は海辺の一軒家。彼女が復讐を果たせたのか、緊迫感は高まる一方。場所は「おそらくチリ」としながらも「ただし独裁体制を脱したばかりのどんな国にも当てはまっておかしくはない」と記す。2024/05/15
松本直哉
33
人物は三人だけ、場面のほとんどは密室という凝縮された設定で、パウリナの激しい怒りによって駆動され疾走するストーリーは、シューベルトの四重奏のアレグロのように荒々しく容赦ない。正当な理由のない逮捕、取り調べ中の強姦、なかったことにしようとする加害者、及び腰で黙認する司法などが明かされるにつれて、読む者は彼女の怒りを共有し、個人的な復讐以外の何が可能かと自問する。拷問を兼ねた強姦の最中に『死と乙女』の曲を流す場面、そのほとんどシュールレアリスムのような不釣合な取り合わせに嘔吐感を感ぜずにはいられない。2023/10/06
かふ
26
思い出さなければならないのはあの国の裁判よりもこの国の裁判ではなかろうか?チリで起きた拷問という判決を受けた女性がピストルを手にした裁判形式の戯曲。この小説は当事者同士が問題になるではなく、夫であり弁護士である第三者が判断しなければならない個人的な判決なのだと思う。民主的国家の公的裁判ではなく、文学的な私的判決なのである。それは不条理劇という戯曲の中で行われたことなのだが、答えが出せないままにこの国の民主主義も続いていくのだろうか?2023/11/23
メルコ
15
人里離れて暮らす夫婦の元にやってきた医師。妻はかつて自分を拷問した相手だと確信し、医師を拉致する…。1990年に発表された戯曲。舞台は海辺の夫婦の一軒家。チリの軍事独裁体制での反体制側に対する拉致、拷問を題材にしている。恐怖、責任追及、復讐心など人間の根源的な感情を揺さぶるものがある。著者はチリから国外脱出していた戯曲家、小説家。現在でも世界中の各地で同様のことが起こり得るという普遍性を有している。優れた戯曲であるということを聞いていたので、手に取ってみた。2024/04/02