出版社内容情報
アルベルチーヌの突然の出奔と事故死─。絶望から忘却にいたる心理の移ろいを、ヴェネツィアの旅、初恋相手の結婚への感慨ととともに描く。
内容説明
アルベルチーヌの突然の出奔、続く事故死の報。なぜ出ていったのか、女たちを愛したからか?疑惑と後悔に悶える「私」は「真実」を暴こうと狂奔する。苦痛が無関心に変わるころ、初恋のジルベルトに再会し、その境遇の変転と念願のヴェネツィア旅行に深い感慨を覚える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
174
★『失われた時を求めて』岩波文庫版全14巻完読プロジェクト、 https://bookmeter.com/users/512174/bookcases/11525156 今回は、第12巻『消え去ったアルベルチーヌ』、ラスト2冊まで来ました。本巻は『アルベルチーヌへの未練タラタラ』と『アルベルチーヌの死』の巻でした。続いて第13巻『見出された時Ⅰ』へ。トータルの感想は、全14巻完読後に。2020/02/19
lily
158
きっと本巻が一番好き。プルーストの意識の源流に最も接近できる時。意識が流れに流れてアマゾンの秘境を放浪し、ニヒリズムの体臭が漂う。私の意識には過敏であるのに対し、他者の心理の読みの鈍感さが際立つ。最終的に欲望の消滅をもたらしてくれるのは、忘却だけと知ってはいても、唇よりも接吻に、愛よりも快楽に、人間というよりも習慣に未練を感じている。性の本能が横溢する。2019/08/25
ケイ
139
読書会のために。集英社版は既読だが、岩波は初読み。囚われていたアルベルチーヌは、ふくよかで半裸でしどけなく淫らに横たわっているイメージでいたのに、彼女が去ってから語り手が思う彼女は、女性からの快楽に悦ぶ妖しさを持つ。しかし、そんな彼女を求める語り手は、少女のそばで慰めを見い出す。登場人物達が急に違う人に入れ替わるような統一感のなさ。やはり、本来のモデルは男であるのに、それをアルベルチーヌに体現させるからおかしなことになっている気がする。アルベルチーヌがどんな人物だか、結局見えてこない。2019/03/02
藤月はな(灯れ松明の火)
106
本書を読んで納得。だからこの題名なのか。あんなにアルベルチーヌに(気持ち悪いほど)執心していた主人公も時が経つにつれてその強い執心は微かなものになっている。それに呼応する形でスワン氏が娘、ジルベルトに「私の事を忘れないでくれ」と望む。しかし、どだい、無理な話で。実生活が伴う時は人の強い想いさえ、押し流してしまう。そのテーマにヴィスコンティ監督の『家族の肖像』を重ねてしまう。また、アルベルチーヌの過去が明らかになったにも関わらず、そのソドム性のみが強調されて彼女自身については暈されたようなのが気になります。2018/06/23
のっち♬
87
アルベチーヌの出奔と事故死の知らせによる「私」の心の苦悶。これに数百ページも割くのが著者らしいところで、恋人の不在により新たに生じた疑念と悲嘆が鎮静するまでの心の動きを丹念に追った心理描写は繊細を極めている。無意志的記憶現象に苛まれる彼の姿は豊かな想像力と鋭敏な感性の代償といえる。信憑性に欠ける素行調査からは「真実を知るのがいかに困難であるか」が伝わってくるが、そこに彼の想いこみも寄与しているのはその後の文面でも明らか。忘却へ向けてテンポが増す中、二組の結婚がもたらす関係者の変貌ぶりが容赦なくて印象深い。2020/10/29