内容説明
海辺を自由に羽ばたく鳥―アルベルチーヌをパリに連れ帰り、恋人たちの密やかな暮らしが始まる。篭の鳥となっても女は謎めいたまま、嫉妬と疑惑が渦を巻く。狂おしい日々を彩る、パリの物売りの声、芸術の考察、大作家の死。周囲の人々の流転とともに物語は進む。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
176
★『失われた時を求めて』岩波文庫版全14巻完読プロジェクト、 https://bookmeter.com/users/512174/bookcases/11525156 今回は、第10巻『囚われの女Ⅰ』、遂に二桁巻に乘りました。本巻は、『束縛』と『嫉妬』の巻でした。続いて第11巻『囚われの女Ⅱ』へ。トータルの感想は、全14巻完読後に。2020/02/15
lily
159
マルセル、嫉妬という名の背後霊に取り憑かれ、苦しむのをやめるか、愛するするのをやめるか、二進数の思考の罠に苦しんでいるね。哲学的な緻密な思考力をもってしても。何事も中庸になれたらいいのにと願わずにはいられないよ。同棲をやめて同性愛にも寛容になって適度に逢瀬を貪るとか。飽き知らずになるには適度な飢餓期間が必要なんだよ。隣で眠るアルベルチーヌの描写には甘美な色調の中に溶解されたよ。川端康成の『眠れる美女』を思い出しながら。写実性に圧倒されたから。2019/08/19
藤月はな(灯れ松明の火)
85
岩波文庫版の訳になれたためか、続刊を心待ちにしてましたが、予想より、翻訳が早いのが本当に嬉しい(*^_^*)主人公はアルベチーヌを物や友人を使って間接的に部屋に閉じ込めておく。謎めいたアルベチーヌを彼女と同性愛的関係にあるかもしれないエステルを見出しす事に主人公は嫉妬というよりは「自分の理想の女」が壊されないようにガラスケースに保管するという執着心にしか思えない。貝売りの声からのアルベチーヌの「ムール貝が食べたいわ!」という頼みから性的な意味合いを読み取ってしまう姿は最早、考え過ぎて病んだ人である。2016/10/17
のっち♬
81
「人が愛するのは、いまだ完全に所有するに至らないものだけである」「私」とパリに連れ帰った恋人アルベチーヌの同棲生活。朝の通りの音や恋人と過ごす夜の描写も夢想をかきたてる大掛かりな比喩表現が用いられていて、実に詩情豊か。「籠の鳥」と化した彼女を「これっぽっちも恋心を感じていなかった」と、他の女に目移りしたり、彼の身勝手さに拍車がかかっている。監視役をつけても鎮静しない嫉妬と疑念から人間認識に対する考察に飛躍する様はいかにも著者らしい。すべては「想いこみ」のせい、人間関係は常にそこに「囚われ」ているのである。2020/10/22
syaori
53
バルベックで空から舞い降りた鳥のような一団、欲望をそそる花咲く乙女たちの一人だったアルベルチーヌは、彼と同棲を始めた今巻では「重くて豊満な囚われ人」に。そんな「囚われ」の状態で「私」の心を鎮めてくれ、同時に嫉妬をかきたてもする彼女。彼女の生活の未知の部分を「知ることで苦しみ、それでもなおも知ろうと」する主人公の嫉妬の干満が繰り返される恋の地獄のなか、ヴァントゥイユの曲に端を発する作品の統一化の発見についての高揚感、「デルフトの眺望」の前のベルゴットの姿が印象に残ります。そのベルゴットの死が語られて次巻へ。2017/08/08