出版社内容情報
無文字社会に生きながらも、あらゆる書字言語(エクリチュール)に先行する叡智を保持し、近代人の病である所有という概念に抵抗するインディオ社会の宇宙観。西欧文明と先住アメリカ社会のヴィジョンの対立をストレートに描く、現代文明批判の書。
内容説明
西欧世界とはまったく異質な輪郭と色彩をもつインディオの世界認識のありかたを称揚し、ヨーロッパ文明とインディオ社会のヴィジョンの対立をストレートに描く、ル・クレジオの記念碑的著作。失われた土着の宇宙観とその残照を擁護する、現代文明批判の書。
目次
タフ・サ―すべてを見る目
ベカ―歌の祭り
カクワハイ―悪魔を祓われた肉体
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
253
西欧文明に行き詰まりと限界を感じているル・クレジオが、その対極にある、いわば理想の姿としてインディオの文明を位置付けている。例えば、自己を際立たせる主体的な言語行為(西欧的)に対して、多くは沈黙を持ってなされる呪術的な言語とその論理(インディオ)。絶えず発展や進化を強要され、何ものかの実現をめざし続ける西欧に対して、何ものも欲しないインディオなど。そのように、音楽や美術などあらゆる点において、インディオのそれが称揚されるのである。だが、そもそもこうした西欧的な二元論の発想が行き詰まりを見せたのではないか。2013/03/14
やいっち
33
ル・クレジオは、学生時代だったか、『物質的恍惚』や『愛する大地』を読んで以来、折に触れ、彼の作品を読んできた。 初めはかなり見当違いな読み方をしてきたと、今更ながらに思う。詩人の感性をまるで持ち合わせない小生だから、仕方ないとはいえ、それでも、この数年だけでも、『海を見たことがなかった少年』や『隔離の島』『物質的恍惚』(再読)などを読んできた。 中南米の作家の本も立て続けによんできて、それなりに味わって読めるようになっている(と自分では思っている)。2018/12/27
ふみ
26
生硬な翻訳もあって 理解しながら読むのは困難。肉体のある生命から共同体へ。共同体から個の魂の叫びへ。個から無へ。 インディオを賛美している著者は徹底的に西欧人男性なのだ、と感じる。2016/05/18
アムリタ
15
個人主義の西洋文明から、文明に侵されていない剥き出しの生を生きるインディオとの遭遇は、若き日のクレジオを打ちのめした。人間存在への問いに突き動かされていた彼への一つの解答がそこにはあったろう。詩的で、矢を射るような鋭いことば。美、音楽、芸術への概念が打ち砕かれる小気味良さ。エゴを肥大させ、装飾し修飾する現代人と、逆行するように回帰、想起し続けるインディオたち。クレジオは、外へと増殖する現代文明に抗って「歌い踊り、書く」のだ、と言う。分断から結びあうことへと、個人ではなく、共に。罠を壊せ、呪いを解けと。2021/10/28
味読太郎
11
タフ・サ《伝授秘伝》、ベカ《歌》、カクワハイ《悪魔祓い》。インディオには「個人の表現」は無い。芸術も。彼らはその行為自体において肌に、肌の延長のバルサ材に模様をつける。彼らは声の持つ破壊が、生の活動と並行する世界から来るものを引き寄せる事を知っている。歌は旋律を持たない。聴衆もない。高音の微小な叫びでもって、彼らは幻想と融和する。それは、「想像力」などではない。インディオが言うこと、我々が聴くことは〈すべてのものに知性がある〉ということ。悪魔とはここでは対立の一方ではなく、表徴そのものである。2016/06/06