出版社内容情報
『人間の絆』『月と六ペンス』と並ぶ,モーム(1874-1965)円熟期の代表作.最近亡くなった有名作家の伝記執筆を託された三文文士の友人から,作家の無名時代の情報提供を依頼された語り手の頭に蘇る,作家とその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出…….人間の,人生の
内容説明
亡くなった文豪の伝記執筆を託された友人から、文豪の無名時代の情報提供を依頼された語り手の頭に蘇る、文豪と、そしてその最初の妻と過ごした日々の楽しい思い出…。『人間の絆』『月と六ペンス』と並ぶモーム(一八七四‐一九六五)円熟期の代表作。一九三〇年刊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こーた
259
タイトルの『お菓子とビール(Cakes and Ale)』とは、人生を楽しくするもの、人生の愉悦、といった意味合いだそうだ。作家が若き日の甘やかな思い出を回想する。田舎町の風景、下宿時代のひととき、魅力的な女性、出会いと別れ、そして再会。カポーティ『ティファニーで朝食を』、サガン『悲しみよ こんにちは』、井上靖『しろばんば』、それに漱石『三四郎』や『こころ』。読みながらなぜだか、時代も場所も異なるさまざまな小説を思い出して仕方がなかった。人生の愉悦、ということなら小説もそのうちのひとつではないだろうか。2021/06/13
のっち♬
116
語り手が亡き文豪の最初の妻と過ごした『人生の愉悦』の日々を回想する。「今あるもので満足すればいいじゃない。そう出来るあいだに楽しみなさいな」—著者の秘めた追憶から生まれた『銀色に輝く太陽』であるロウジーの人物造形が本作最大の魅力で、無節操だけど誠実で、恋愛に対して自由奔放な彼女を中心に繰り広げられる40年に及ぶ人間ドラマが叙情的に語られる。諧謔に富んだ皮肉や辛辣な風刺を交えた、鋭い人間観察や卓越したストーリーテリングからは円熟期の著者の余裕が感じられる。どこかシニカルでほろ苦さのあるラストがまた心地良い。2020/08/21
jam
102
モーム成熟期に書かれた大人の小説である。語り手が、亡き文豪の人生を回想するが、いつの間にか奔放な妻ロウジーが匂い立つ。その文豪の妻ロウジーにはモデルがおり、モームの叶うことのない想い人だったと言われている。節操のない女として語られるロウジーはしかし、憎めない。それがそのままモームの想いと重なり、表題「お菓子と麦酒」が腑に落ちる。人生に必須のものではないそれらが、人生を潤す。乾いた洒脱な物語を描き、あえて通俗作家の名に甘んじていたモーム。こうして遠い異国で、彼の物語が読み継がれていることをそっと伝えたい。2016/11/11
ももたろう
61
久々のモームの長編。短編と全然違う。この作品の中で印象的なことは二つ。一つは無邪気な愛情深さへの賛美だ。ロウジーは、誠実さと汚れ知らずの無邪気さで愛情深い人間の象徴だった。彼女はこれらの性質に加え美貌を兼ね備えていた。だから多くの男を喜ばせた。そこにあるのは欲望ではなく、純粋に相手を喜ばせたいと言う思いだけだ。モームがこう言う人間を愛したことがありありと感じられた。二つ目はこの作品はモームによる作家論になっている点だ。中でもとりわけ印象的なのは、物語の終盤に出てくる『作家の埋め合わせ』と言う言葉。→2017/01/21
ちゅんさん
53
『月と六ペンス』よりは地味だがこちらも芸術(文学)を扱い人間の姿を描いた作品だった。大きな出来事は何も起きないのに退屈しないのはユーモアと時にゾッとするほどの皮肉が効いてるから。これもモームの人間観察眼がなせる技か。教養がある読書へのサービスも忘れていない(らしい)し筆致に余裕を感じる。この人は本当に小説を書くのが上手だなぁと思った。ちなみにタイトルの“お菓子とビール”は人生を楽しくするものという意味。2023/08/23
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