出版社内容情報
紅灯の街、日本橋を舞台に、芸者・お孝と清葉、医学士・葛木晋三、商人・五十嵐伝吾、四人の男女が激しく切なく交錯する物語。時代の風潮に抗して、女性に凛々しさ、哀しさを求めた作家は、華麗な言葉を全篇にまく様にして、愛の観念を謳い上げた。鏡花一代の名作、近代文学不朽の古典。(解説=佐藤春夫・吉田昌志)
内容説明
紅燈の街、日本橋を舞台に、芸者・お孝と清葉、医学士・葛木晋三、商人・五十嵐伝吾、四人の男女による恋をめぐる物語。時代の風潮に抗して、女性の凛々しさ、哀しさを求めた作家は、奔放にして華麗な言葉で、愛の観念を謳い上げた。鏡花一代の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
53
飴を買いに行く芸者へ赤穂浪士気取りの小僧達が野次を飛ばす所から物語は始まる。その野次とちょっかいが本当に憎体で!そこから透けて見えるのは子供からも冷ややかな目線で貶される花柳界である。最もその悪餓鬼共は意外な形で煙に巻かれるのでご安心を。そして医師、葛木に執拗な職務質問を掛けた警察官が後に彼の研究室に見つけたものに態度が変わるのが良い意味で印象深い。今までも現実的に対処してきただろう警察官はそこで幽玄への憧憬の一端に触れたのだろう。その真逆の思想に引くのでもなく、驚異の念に撃たれたという彼が清々しい。2023/10/24
優希
41
面白かったです。紅燈の街・日本橋を舞台にした恋をめぐる物語。華麗な言葉で紡がれた愛の観念は鮮やかで美しく、夢を見ているようでした。だからこそ最後の悲しい結末が刺さるのです。2025/05/31
tsu55
26
すでに途絶した日本橋花柳界を舞台に、滝の家の清葉と稲葉家のお考という二人の名妓と医学士葛木晋三、異形の商人、五十嵐伝吾の四角角関係?を中心に描かれる。 勝気なお考、対照的に内気で控えめな清葉、お考の妹でまだ初々しいのお千世。三人の芸妓の描写が美しい。鏑木清隆の美人画を思い浮かべながら読んだ。2023/08/31
hasegawa noboru
21
戦前と戦後の二回映画化され、新派劇として何度も上演されているということは知っていた。なんとなく芸者さんの白塗りの厚化粧をイメージし、かってに敬遠していたが、鏡花生誕150年ということで新装文庫化されたのを機に読んでみた。やはり、名作は名作だね。日本橋芸者「お孝」と「清葉」。医学士「葛木晋三」と北海道産物商会主「五十嵐伝吾」男女四人の<色事の達引き>意地の張り合いが絡まって、四者四様の<愛の観念(イデア)が>(表紙カバー)浮かび上がる。私に最もインパクトのあったのが、「赤熊」と綽名される異形の者、伝吉。2023/11/28
うた
10
鏡花独特の比喩が続いて話を追いづらいが、少しずつ甘露を楽しむように読んだ。清葉もお考も千世もそれぞれ可憐で哀れ。お互いにむける愛情はどこか一方通行でそれが悲恋のもとなっている。鮮やかでありながら、悲しい結末で物語に綾がつく。2023/08/02