内容説明
「思わず彼は拾い上げた桜の実を嗅いでみて、おとぎ話の情調を味わった。それを若い日の幸福のしるしというふうに想像してみた」―。藤村(1872‐1943)の文学への情熱、教え子へのかなわぬ恋を投影した青春の自画像。同じく自伝的小説である『春』『新生』の、少年期から青年期を描く。改版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
qwer0987
12
本書には明確な筋がない。そのため一見すると退屈なのだが、ふしぎなくらいするすると読める小説だった。それだけ文章が優れているとも言えるのだろう。主人公の捨吉はうぶな青年という感じがする。特に女性関係はそうで、冒頭では年長の繁子をやたら気にしているし、教師になってからは教え子に恋をしたりと、その煩悶は微笑ましい。そんな彼は文化的な世界に触れるにつれ、文学へのあこがれを募らせていく。そういった諸々の雰囲気に明治の息吹を見た気がした。2025/07/03
かつみす
4
藤村自身の若き日々を素材にした小説。キリスト教系の学校で学んだ後、後見人であるおじさんの商売にかかわるも、学への思いを断ちがたく、独立して女学校の教壇に立つ。だが教え子への思慕に懊悩した果てに、教職を辞し、旅に発つまでを描く。若い主人公の個人としての歩みと心の揺れを描いた小説だが、それだけではない。キリスト教が明治の世にもたらした清新な空気のなかで、日本の若者たちが西洋文化に触れて新しい自分を発見し、独自のものを創っていこうとする機運もこの作品は伝える。『破戒』とはまったく異なる味わいの、青春小説の古典。2026/05/02
ぱせり
4
少年期から青年期まで。寂しさの内側には一途な激しさを秘めている。捨吉の鬱屈した心については、それでよしと肯定的に書かれているように感じる。沈み込んだ日々は不幸ではないのだと思う。むしろ、浮わついた明るさから離れ、深く思うことの多い、幸せな時代だったともいえるかもしれない。2023/06/25
本命@ふまにたす
3
島崎藤村の長編。キリスト教における「信仰」の問題が出てきたり、他の文学作品からの引用があったりはするが、基本的には読みやすく感じた。注解もついており、読解の助けになりそう。2022/08/30
今野琢
0
明治20年代に高輪台の学舎に学んでいた主人公岸本捨吉は、年上の繁子との交際に破れ、新しい生活を求めて実社会へ出て行く。しかし、そこで遭遇した勝子との恋愛にも挫折した捨吉は西京への旅に出る――。 作品の行間には少年の日の幸福の象徴である桜の実にも似た甘ずっぱい懐かしさが漂い、同時に恐ろしい程に覚醒した青春の憂鬱が漂う。「春」の序曲をなす、傑れた青春文学である。2023/10/31
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