出版社内容情報
条文と柵とに縛られた兵営での日常生活は人を人でなくし、兵隊へと変えてゆく…。人間の暴力性を徹底して引き出そうとする軍隊の本質を突き、軍国主義に一石を投じた野間宏の意欲作。改版。(解説=杉浦明平・紅野謙介)
内容説明
空気のない兵隊のところには、季節がどうしてめぐってくることがあろう―条文と柵とに縛られた兵営での日常生活は人を人でなくし、一人一人を兵隊へと変えてゆく…。人間の暴力性を徹底して引き出そうとする軍隊の本質を突き、軍国主義に一石を投じた野間宏(1915‐91)の意欲作。改版。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ベイス
92
大西巨人が大岡昇平との対談でこの『真空地帯』が軍隊を社会と切り離しすぎていると批判していたが、外泊と隊生活には大いに連続性があってこの批判はあたらないと感じた。大概、テレビなどでの兵士たちの伝え方には悲壮な覚悟や報国の忠、惜別の情などが強調される向きがあるが、この小説で描かれる「内務班」の実態はどうしても野戦に行きたくないという兵士たちの本音と幹部たちの腐敗であって、ああやはりこうなのか、『レイテ戦記』に出てくる遊兵に連なる姿が思い出された。大岡は遊兵に蓋をしたが、むしろ尊ぶべき人間の素であると思う。2023/08/21
syaori
68
舞台は第二次大戦末期の陸軍内務班。刑務所から戻ってきた木谷を追って物語が進みます。官品持ち出しと御用商人との癒着で大きな力を持つ経理室の勢力争いと不正隠蔽のため死地へやられる彼の物語を通して描かれるのは、条文の下に人間を「兵隊」にする軍隊や、その個人から「一定の自然と社会」を奪う兵営が無惨にも暴き立てる、保身や自分の地位のことしか考えない身勝手で我儘で自分本位な人間の姿で、それにより「自分の知らない運命をせおわされ」その不条理に抵抗し圧し潰される木谷の「ばくはつする奇妙な泣き声と殴打」が耳に残りました。2025/12/29
やいっち
27
長らく、敬して近寄らずできた本。戦後早々に出た反戦の問題作。読まなきゃと思いつつ、何か例えば堀田善衛の『広場の孤独』や大岡昇平の『俘虜記』や『野火』といった本ほどの鋭さを感じない……あくまで先入見である。 とはいっても、いつまでも避けてはいられない作品である。ということで、重い腰を上げた。 読み始めて、やはり、重苦しい…最後まで読み通せるかと思ったが、読んでいくほどに本書が意識の流れの手法を汲みつつも、解説の紅野謙介の話にあるように、ちゃんとしたストーリーがあり、ある種のサスペンス性もある。2018/11/20
うえうえ
21
真空地帯というタイトルに興味を持って読み始めた。文章は読みやすいけれど、続きに興味が持てなくて80ページ(全体の6分の1)で挫折。兵士の話なんだけど戦争の緊迫感が感じられないのはなせだろう。余り変化がないのだが後で何かが起こるのだろうか。2020/03/24
賢一
16
戦時中の内務班の実相を三人称複視点で軽妙に描いている。軍隊内部の会話文は全編通して関西弁で最初は読みにくさを感じたがかえってそれが中盤から没入する主因になった。私小説的な部分も織り交ぜ、一兵卒の心理を対立や闘争、抑圧といったストーリー構造で登場人物の内面、軍隊組織の欠陥を浮彫りにしている。 半沢直樹のように腐りきった上司に倍返しとはいかない。軍隊の強固な縦社会に息を詰まらせる。2025/08/31




