出版社内容情報
芥川の国内と中国紀行文集。特派員芥川は.現実の中国の実情を見つめ,自身の思いを刻々と伝える。作家による特異な文学ルポルタージュ.
内容説明
芥川の国内の旅行記と中国紀行を収録する。芥川は、1921年、「大阪毎日新聞」視察員として中国(上海、杭州、南京、北京など)を訪れる。特派員芥川は、伝統的な中国像にとらわれることなく、中国の実情や対日観を裸の眼で冷静に見つめ、紀行文に新たな方法を試みている。芥川の作品中でも、特異な文学ルポルタージュである。詳細な注解を付した。
目次
1(松江印象記;軍鑑金剛航海記;京都日記;槍ケ岳紀行;長崎 ほか)
2(上海游記;江南游記;長江游記;北京日記抄;雑信一束)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
120
芥川龍之介の小説に比べ、唯一の海外旅行記である『支那游記』は評価が低い。半植民地状態だった状況を率直に描いたことが中国人の反感を買い、その風潮が輸入された側面もあるようだ。確かに政治腐敗やアヘンに乱倫な風俗など芥川の中国批判は厳しく、自ら悪口を書いていると認めている。しかし中国人にとって不愉快な話だけでなく、排日の落書きや日本兵の蛮行など日本人の恥ずべき部分も記録している。そこには醜悪であろうとリアルを報じようとするジャーナリストの眼差しと、漢学に通じた作家として中国に立ち直って欲しいと願う思いを感じた。2023/04/21
まーくん
87
中国旅行記と若干の国内旅行記から成る紀行文集。国内分については先に感想を上げた。今回は上海遊記、江南遊記、長江遊記、北京日記抄などから成る中国旅行記について。1919年、芥川龍之介は海軍機関学校の教官を辞し、大阪毎日新聞社入社、執筆活動に専念する。二年後の1921年(大正10年)、新聞社の海外視察員として中国に派遣される。その一連の紀行文が『支那遊記』としてまとめられた。しかし正直これを読むのには大変難儀した。こちらの教養のなさはしかたないが、100頁近くもある注解を毎々参照しないと意味が取れない。⇒ 2023/03/25
まーくん
87
新聞社派遣の中国旅行記と若干の国内紀行文から成る。国内紀行編は執筆純順に、学生時代に訪れた『松江印象記』。廃城令を免れた松江城(千鳥城)と川の水・木造の橋の調和を謳っている。次は『軍艦金剛航海記』。巡洋戦艦「金剛」に乗船、僚艦「榛名」と共に(相模灘の情景を記しているので)、恐らく横須賀から瀬戸内の碇泊地までの航海。どうして芥川が軍艦にと思ったら、彼は大学卒業後、海軍機関学校に職を得、教官を務めていた。士官待遇で興味深く各所案内される感が良く伝わってくる。他に京都や長崎・軽井沢などを併せ国内全9編。2023/03/22
HANA
65
芥川龍之介の紀行文を収録した一冊。とはいえ国内は五分の一程度に留まり、大部分は中国旅行記に費やされている。紀行文だと小説や随筆に比べ、ナマの著者が出てくるような気がするのだが、ここの芥川もその例に漏れず。西湖や揚子江に浮かびながら風景を愛で中国の詩文に惹かれる一方で、アメリカ人の立小便に怒ったり、同行者と喧嘩したり、船の上から湖に大便してるのを目撃しうんざりしたりと、現実に辟易する様子が何ともおかしい。この著者の様子こそ紀行文の醍醐味だよなあ。芥川らしさがこの上なく出た一冊なので、読んでいて実に面白い。2020/01/29
やいっち
55
主に仕事の車中での待機中に読んだ。密度の高い純文学の作家で、やや高邁な風な印象を持っていたが、紀行文ということで、芥川の素養はもちろんだが、人間味を感じられて興味深かった。繊細過ぎる神経を自覚していたようだが、旅でその感性を少しでも和らげたいと思ってもいたらしい。ブラジルでのサンバはなかなかの見物だったと思うが、感性を撓めることはなかったか。芥川がストリップ(ヌードショー)を高く評価していたのは、嬉しい。吾輩も後に続くぞ。2019/12/09