出版社内容情報
「国民(ナシオン)」は歴史的・法的・言語的にどのように構成されているのか? フランス民族学の創始者モースが、社会主義者としての立場から、第一次世界大戦とロシア革命を経た世界における「国民」のあり方と「間国民性」の可能性を探る。
内容説明
フランス民族学の創始者マルセル・モース。そのもう一つの顔は、社会主義の実現を目指した活動家であり、思想家であった。第一次世界大戦とロシア革命を体験した世界は、どのような社会に向かうべきか?文明・法・経済・言語・心性など「国民」を構成する全体を吟味し、「国民」のあり方と「間国民性」の可能性を探る。
目次
ボリシェヴィズムの社会学的評価
国民論
文明―要素と形態
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
86
モースというと「贈与論」が有名ですが、最近出版されてこの本では異なった内容の論文を読ませてくれました。もともと社会主義の実現を目指すような考え方を持っていたということでこの本には「ボルシェヴィズムの社会的評価」「国民論」「文明」という3つの論考での考え方を表明しています。とくに「国民論」では彼の国民という概念を明確にして「国民とは、祖国愛が決定的な仕方で花開く理想的な場であった」と規定しています。あまり今まで読んだことのないような国民という概念でした。2018/12/10
藤月はな(灯れ松明の火)
66
色々、示唆的で刺激的な本。ロシアでの革命の評価で暴力による手段は限定的状況下と一時的には有効とは言え、将来的には倒したものと同等に成り下がる事への警告や「文明は互いに影響し、適用される力を持つ。しかし、限界域があり、そこを超えると拒絶反応が起こる」と今のグローバル化が迎えた問題を炙り出しているのが凄い。2019/02/09
roughfractus02
10
人類学者の著者は社会主義者だが、国家に抗するトーテミズム的な権力分散的社会を念頭にして、中央集権的シャーマニズム社会の末裔たる近代国家を見据える。1920〜50年代の3本の論文を収めた本書は、生産中心の社会主義がソ連のようなトップダウン的独裁を作り出した、と批判する。著者は、贈与と交換によって社会を作る人々をあえて「国民」と呼び、国家が言語や人種の同一性を強制する国民概念に異議を申し立てた。異質なもの同士の連帯が前提になくては、贈与と交換は機能しない。「有機的連帯」というビジョンは今もその批判力を持つ。2024/02/17
nranjen
6
しばらくの間、読書メーターをごぶさたしてしまった。この本は11月初旬(中旬?)にコレド宝町の誠品書店で『贈与論』と一緒に購入し、飛行機に乗るときに偶然手に取ったのが、『贈与論』ではなくこちらの本だった。『贈与論』だと思って読み始め、革命?ナシオン??。思えば意外なきっかけから読めてよかった。民俗学者がなぜ革命や社会主義についてこんな風に論じているのかや、意外な国民論(これはまだ謎だ)など、前知識がないからこそ浮かび上がる疑問点を得ることができ、新鮮だった。モースは説明を読んでもわからない所が多く、要再読。2019/12/02
遊動する旧石器人
2
2018年11月16日第1刷発行。贈与論で有名なフランスの民俗学者マルセル・モースの別の一面である社会主義者としてのモースの論考3篇を収めた1冊。国民(ナシオン)を統合化・統一化された社会をそれと定義し是と考えた上で、近代欧州国家が個別化の方向に進むことを否定的に捉える。それでもって間国民的な諸現象に着目し、文明・技術・審美性・宗教・法・言語を考察する。それらが広がっていくことを借用という単語で説明し、その限界域ではそれらの拒絶が起こると説明する。様々な分野で国家形成を研究している人には必読の一書である。2018/12/22