内容説明
量子力学を創造し、原子物理学の基礎をつくった著者が追究した生命の本質―分子生物学の生みの親となった20世紀の名著。生物の現象ことに遺伝のしくみと染色体行動における物質の構造と法則を物理学と化学で説明し、生物におけるその意義を究明する。負のエントロピー論など今も熱い議論の渦中にある科学者の本懐を示す古典。
目次
第1章 この問題に対して古典物理学者はどう近づくか?
第2章 遺伝のしくみ
第3章 突然変異
第4章 量子力学によりはじめて明らかにされること
第5章 デルブリュックの模型の検討と吟味
第6章 秩序、無秩序、エントロピー
第7章 生命は物理学の法則に支配されているか?
エピローグ 決定論と自由意思について
1 ~ 3件/全3件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まーくん
112
再読。といっても前回はとば口で挫折。波動方程式で有名な量子力学の先駆者が物理学の視点から生命の謎に迫る。一般聴衆への講演を基にした1944年刊の歴史的名著。統計物理学からみて、生物と無生物とは構造が根本的に異なっているとし、分子生物学の教科書ではもはや自明のこととして殆ど言及されないマクロの世界とミクロの世界の関係を丁寧に解説しており、腑に落ちることが多かった。”負のエントロピー”を取込みエントロピー増大の流れに逆らう仕組みが生命と理解したが…。やっと読み切った。尤もエピローグは訳が分からず読み飛ばした。2020/02/26
やいっち
82
分子生物学は、1953年にワトソンとクリックが遺伝物質DNAの分子構造模型を提出したことが決定的な転機となり生まれた。本書はその十年前に出た。古い。が、それでも読む価値があるのは、あとがきの鎮目 恭夫氏の言葉を借りると、「量子力学の誕生以前に主にアインシュタインとプランクによって明示された自然界の量子的構造にもとづく原子や分子の構造の安定性が、生物の遺伝物質の高度の安定性を可能にしている決定的な要因であることを指摘することによって、本書の十年後に確立された分子遺伝学への基本路線を示した」からである。2021/03/22
夜長月🌙@読書会10周年
78
量子力学を創造し、原子物理学の基礎を作ったシュレディンガーが生物学の原理に迫ります。著書の中でも異なる学問領域に首を突っ込む理由と言い訳を述べています。例として熱機関を極めた職人が電気モーターを学べば一般の人より深い理解が得られるであろうとしています。物理学的な生命体の説明は必ずしも十分に理解はできませんでしたが「生物体は負エントロピーを食べて生きている。」という生命体の一つの定義は鮮やかです。2021/04/30
おつまみ
75
人間は原子の集合体である。人間に関わる巨視的な物理現象は目に見えることが多いが、生命に適用するとなると、統計的な手続きが必要になってくる。実際に観測できる現象、特にニュートン力学は微視的な運動の平均であり、近似的なものである。平均して規則正しい常磁性や拡散が出てくるわけで、一つ一つの原子に対しては、量子力学を用いて対応しないと評価することができなくなる。難しいが、生命に対しては遺伝などに適用しているが、なかなか説明するのは難しい。とはいえ、前半部の物理現象の説明は大学生が読むと非常に分かりやすいと思った。2021/05/09
えか
49
非常に小さい分子のDNAが何故、熱エネルギーの影響を受けずに安定的に存在できるのか、何故、突然変異が稀にしか起きないのか、何故、一度起こった変異が安定するのか。本書刊行当時(1944年)の量子力学や生物学を駆使して量子論学者シュレーディンガーが説明したのが、本書である。といっても、そんなに難しい科学知識はそれ程必要なく。量子論以外は義務教育の理科の知識で読めます。ただ、この量子論が曲者で、本書は優しく書いてあるものの、エントロピーや統計的な基本はやはり、しっかりと読んで理解した上で、読み進めてもらいたい。2023/07/09