出版社内容情報
現代の政治の世界では、なぜ理性的な思考よりも、神話的で非科学的な考え方が支持されるのか? 二十世紀の大思想家カッシーラーが、ナチズムの支配するドイツを離れて亡命したアメリカで、最期まで取り組んだ大問題。国家と神話との結合、理性がそれに抗する闘争の歴史を、古代ギリシアから現代まで壮大なスケールで跡づける。
内容説明
現代の政治の世界では、なぜ理性的な思考よりも、神話的で非科学的な考え方が支持されるのか?20世紀の大思想家カッシーラーが、ナチズムの支配するドイツを離れて亡命したアメリカで、最期まで取り組んだ大問題。国家と神話との結合、理性がそれに抗する闘争の歴史を、古代ギリシアから現代まで壮大なスケールで跡づける。
目次
序章 国家の神話
第1部 神話とはなにか?(神話的な思考の構造;神話と言語;神話と、情動の心理学;人間の社会的生における神話の機能)
第2部 政治理論の歴史における神話との闘争(初期ギリシア哲学における「ロゴス」と「ミュトス」;プラトンの国家篇;中世の国家論の宗教的ならびに形而上学的な背景;中世哲学における適法的国家の理論;中世哲学における自然と恩寵;マキャヴェリのあらたな政治学 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
syaori
79
20世紀に神話的思考が「合理的な思考に対して優位をしめるように」なり、それは「全体主義的」な国家観を主張していると作者は言う。これはなぜか、合理的な思考は政治的領野でなぜ敗北したのかを考察する本。上巻では、プラトンが『国家』で因習的で神話的な伝統を拒絶し人は自ら全責任を引きうける自由な行為者となったこと、中世ではその思想がキリスト教的に変容し、マキャヴェリが『君主論』でその中世の神を頂点とする位階構造を断ち切ったことなどが語られます。これにより悪徳も美徳も等しく科学的精神をもって扱われるようになり下巻へ。2023/10/27
加納恭史
20
和辻哲郎の「風土」は地理的条件による人間の感性に関する影響力の歴史的空間的な哲学が実に見事でした。民族の自然と政治の話と神話的な影響も考慮される。その継続として、カッシーラーのこの本「国家と神話」に関心が湧く。まあ人間的経験の全ての側面―つまり、芸術・文学・宗教・科学・歴史から、人間の認識と文化の形態を哲学している。カッシーラーは現代の新カント派の哲学者であるが、理性以外にも人間に影響する国家や神話の歴史的な意味を哲学する。神話と宗教の歴史的関係も考察する。それでいて現代の国家の権力のあり方も検討する。2023/06/23
春ドーナツ
13
2022年から毎月岩波文庫の新刊をチェックするようになった。先日、2021年以下に貴重な(個人的に)本が埋もれているかもしれないと思った。で。画面に表示される「→」をひたすらクリックして、2010年まで遡った。という経緯で本書を読んだ。翻訳者が「存在と時間」と同じ方で親近感も手伝った。同一哲学を実践されている学者たちの弁証法には個人的に懐疑的であった。「だったら、何でもありじゃん」と思うから。カッシーラー氏の場合、スマートである(つっかからない)、論理を展開していく上で有効に活用されていると素人ながら思う2023/12/16
∃.狂茶党
11
全体主義は国家の十全なる姿だ。 宗教に似た欲望だろう。 ギリシャ哲学は、論理によって国家を説明し、理想を語ろうとした、しかしそこには普遍的なものはなく、民族主義の目隠しがかけられていた。 キリスト教は、唯一の神をいただくがゆえに、論理によって国家を論じ、政治を編み直すことをしてこなかった。 ルネサンスの時代、マキャベリが近代を切り拓く。 彼の見たものは必要性、機能、国家の技術論であり、仕様書であった。 ここで神は却られ、運命は、抗い得るものとなる。 2022/09/13
鏡裕之
2
原題は『国家の神話』。『国家と神話』とした方が内容にふさわしいということで改題されている。国家についての理論の変遷を、比較的にわかりやすく追いかけている。ところで岩波書店といえば誤字脱字を許さないことで有名なのだが、なんと誤字が……。337頁。「プロティヌスは、グノーシス派のひとびとを不信仰ゆえに非難」「とプロティノスは語った」。かたやプロティヌス。かたやプロティノス。同一人物だと思うのだが、これ、誤字では……?2021/11/02