出版社内容情報
神に対する知的愛を中心とするスピノザ哲学の大綱は,彼(1632‐1677)の30歳以前にすでに出来上っていた.彼は自己の体得したこの福祉への道を,まず友人たちに伝えようとして口述筆記させた.これが本書である.晩年の著作に比し,素朴でみずみずしい感じのするものだけに親しみやすい.スピノザ哲学へのよき入門書である.
内容説明
自己の哲学体系をはじめてまとめあげた論文。スピノザ哲学への格好の入門書。死後二百年近くたった十九世紀後半初めて公表された。
目次
第1部 神並びに神に属するものについて(神が存在するといふこと;神とは何か;神が万物の原因であるといふこと;神の必然的作用について;神の摂理について ほか)
第2部 人間並びに人間に属するものについて(臆見、信念及び知識について;臆見、信念及び明瞭な認識とは何か;感情の起源、臆見から生ずる感情;何が信念から生ずるか及び人間の善悪について;愛について ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ex libris 毒餃子
13
スピノザにおける神の概念を詳しく知ることが出来た。2022/02/06
karatte
13
再読。訳者による30頁にも及ぶ解説が冒頭にあるが、「短論文」の理解のためには先ず写本A及び写本Bの性格とその成立事情を検討することが絶対に必要(17頁。原文は旧字旧仮名)とあるように、複雑怪奇な過程を経て不完全な形ながら後世に遺されたのが本書。スピノザの主著『エチカ』を繙く上での恰好の概説書であり、『エチカ』の思想の熟成を窺うための第一級の資料でもあるのだが、それにしても実在すら疑われていた時代に付けられた『悪魔の章を含むオランダ語のエチカ』なる呼称の、なんとも蠱惑的な響きよ!2019/06/12
またの名
11
約200年間行方知れずだったため、どこまで本人の記述か不確定な論文。善と悪が自然の中には存在しない、との記述を、後世の注釈者達は「本章の主題の確証に寄与するところがない論拠薄弱なもの」でスピノザの文章ではないと退ける。しかし、個別的観念の対象のみが真の実在性をもち普遍的観念と一致するものは存在しないので、普遍的観念と何かとを比較することで我々が判断している善悪など二つの物を比較する人間の理性の創作物、とその手前でしっかり論証。善悪を仮想してしまう理性に幸福へ導く力はないと述べる哲学者は、見かけ以上に過激。2018/09/04
素人
4
「…事物について或ることを肯定乃至否定するのは我々でなくて事物自身であり、この事物自身が我々の中で自身につき或ることを肯定乃至否定するのである」(163頁)。この部分がスピノザの認識論(と言ってよければ)のポイントの一つだと理解している。『エチカ』第2部定理48・49にも同様の内容が含まれているが、『短論文』のこちらの記述の方が分かりやすい。2023/07/16
うえ
4
「我々は或る物を善或は悪であると知りながらも時にその善をなす力を、或はその悪をやめる力を我々の中に見出さないことがあり、又時にその力を見出すこともある、これは何に依るのか、といふことである」「悪魔は存在し得ることが不可能である。それにしても何故人々は悪魔を仮定するのであろうか、悪魔を仮定せねばならぬ必然性が全く存しないのに。といふのは、我々は他の人々のように憎み、嫉妬、怒りその他同様の諸感情の原因を見出すために悪魔を仮定することは必要でない、かかる虚構をなさずとも我々はその原因を充分見出してゐるのだから」2017/07/21