出版社内容情報
スピノザは『エチカ』の中に自己の哲学思想のすべてを結集させた.典型的な汎神論と決定論のうえに立って万象を永遠の相のもとに眺め,人間の行動と感情を嘆かず笑わず嘲らず,ただひたすら理解しようと努めた.ドイツ観念論体系成立のうえに大きな役割を演じ,また唯物論的世界観のすぐれた先駆的思想でもある.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
加納恭史
28
「神学・政治論」を読んでから、やっぱり基本書としてのこの本に戻って、上巻は読んだが、下巻をゆっくり味わおうと思う。第四部「人間の隷属あるいは感情の力について」。感情を統御し抑制する上の人間の無能力を、スビノザは隷属と呼ぶ。なぜなら、感情に支配される人間は自己の権利のもとにはなくて運命の権利のもとにあり、自らより善きものを見ながらより悪しきものに従う(オヴィディウスからの引用)ようにしばしば強制される運命の力に左右される。彼はこの原因を究め、更に感情がいかなる善また悪を有するか、完全性と不完全性も検討する。2023/06/10
田氏
24
上巻の第一部、第二部、読者に背を向けるように淡々と基礎を固め、先へ先へと歩を進めていたスピノザは、第三部でこちらを振り返る。下巻はいよいよ我々に面を向けての問いかけとなり、最後の第五部でスピノザの目指したはるかな地平が示される。どうあれば善くいられるかを、善とはなにか、それがいかに表象されるか、それを…と突き詰めた先の原点から辿り直した足跡だった。その一旦の到達点から、世界は世界がいかに複雑であるかを知りはじめ、それを知った我々自身も自らを複雑に変容させ続けている。今のエチカのかたちを想像し、本を閉じる。2020/04/24
壱萬参仟縁
23
感情とは、精神に関する限り、ある観念―精神がそれによって自己の身体につき以前より大なるあるいは以前より小なる存在力を肯定するある観念(19頁)。これは感情の総括的定義(25頁)。理性に支配される人間、理性の導きに従って私益を求める人間は、他の人にも欲しないことも自分のために欲求することがなく、公平で誠実で端正な人間である(30頁)。危難とは何らかの害悪、悲しみ、憎しみ、不和などの原因となりうる一切(81頁)。スピノザは、訳者註によると、自ら十分田舎生活のよさを認識していた(141頁)。 2014/08/03
内島菫
22
本書にうかがえるのは、この世界や生を証明するまでもなくアプリオリに良いもの(善)として肯定するという大前提。だから有とか存在するということは即真理に結び付き、神の存在も神が真理であるとともに即肯定される。また人間においては受動よりも能動を良しとされ、デカルトに受動(passion)とされた感情(情念)は、スピノザにおいてはさらに否定的に見られている。スピノザはデカルトのいう松果腺における心身の結合(心身のはっきりとした分離)を完全に否定し、2021/01/28
Gotoran
22
本書では、(表紙概説の如く)上巻1~3部を前提に、主題の倫理学(4部:人間の隷属あるいは感情の力について、5部:知性の能力あるいは人間の自由について)が考察・論考される。依然、幾何学的論述形式ではあるものの、若干の慣れが加わり、上巻に比べ読み易さを感じた。神、精神、感情を幾何学的に分類・分析し、人間の幸福についての考察・論考は、スピノザが生きた時代に限らず、現代にも十分通じるところがあり、気付き・学びに溢れていた。要再読本。2013/06/29
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