出版社内容情報
近代感情論の源泉(一六四九)。情念=悪という見方やスコラ的見方を否定し、理性の判断に従えば情念に動かされる人間が最も喜びを得ると主張した。心身関係の説明は卓越した脳の知見を含む。デカルトと現代を結ぶ一書。
内容説明
近代感情論の源泉とされる『情念論』(1649)は伝統のスコラ的見方や情念=悪という見方を否定し、理性の善悪の判断に従う限り、情念に最も動かされる人間が最も多くの喜びを享受すると主張した。心身関係の具体的な説明にみるオートマティズムや脳の知見は、優れて現代的な課題を含む。デカルト解釈の可能性を広げる一書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
内島菫
30
心身二元論に注目すると、これまでの『方法序説』と『省察』では精神と身体をわけることに力が注がれていたが、本書ではその結び付きについて「情念passion」を通して考察される。passion=受動でもあることから情念は精神の受動とされ、それは同時に身体の能動となる。この受動と能動の関係は同じことの二つの側面としてではなく、心身二元論の立場から循環論のように説明される。つまりここでもデカルト的循環が顔をのぞかせる。たとえば怒ったとき顔が赤くなる人がいるが、なぜ顔が赤くなるのかということが生理学的に解説される。2020/12/08
茉莉花
28
「情念論」と言おうとすると「ジョンレノン」と聞こえるのは気のせいか...。今まで読んだ哲学的モラルの中で一番良かったと思える書物です!情念の全てを取り除くのではなく、その理性に従い統御することで自分の人生を楽しめるというデカルトの考えが良いな〜と思いました。他にもこの書物には情念の種類や情念に寄って変化する身体の様子も紹介されてたので楽しめました。精神は心臓ではなく脳の中にあることも初めて知りました。記憶には驚きが必要ということも納得!その辺に売ってる自己啓発書を読むよりこれを読んだ方が絶対タメになるがな2016/05/13
Bashlier
23
4/5 元祖感情のトリセツ。喜怒哀楽それぞれを細かく分類し、どんな役割があるのか解説するという内容。感情を精神的臓器として肯定的に捉えます。特に、”二種類ある怒りの比較”、”臆病と恐怖は役に立たないのになぜ備わっているのか?”の分析が秀逸。”情念のメッセージを正しく理解し、理性的にこれをコントロールできるようになればより卓越した人間になれる”という研究は骨太。感情は抑え込むべきものという潮流が広がって久しいですが、400年前の気高い知性は”押し殺さずうまく活用せよ”とおっしゃっています。2023/04/11
Francis
23
デカルトの方法序説、哲学原理と読み進めてきたので、積んどくしてあったこの本に挑戦。最初の方はつまらなかったのだけど、第三部の「特殊情念について」はまさにデカルトによる倫理学の解説となっていて、とてもよかった。特に「高邁」について論じた文章には大いに共感。デカルトは倫理学に興味のない人という偏見を持っていたのだけれど、それは間違いだったことに気付いた。やはりデカルトは近代哲学の父にふさわしい素晴らしい哲学者だと思います。2017/10/28
またの名
20
欲望や喜びや悲しみや愛や憎しみ等の情念はその本性上すべて善い、だから情念に動かされる人間は最も心地良さを味わえると唱え、禁欲主義のモラルとは別の道を行く書。しかし喜ばしい快感ばかりを重視するわけではなく、悲しみ>喜び、憎しみ>愛、といった序列さえ有用性の観点から主張される。これら情念をどう精神のために活用するかの方が重要だとするデカルトは、情念が激し過ぎても身体にとって有害なだけで、「もし仮にわたしたちに身体がないとするなら、愛と喜びにどれほど溺れても溺れすぎることはない」と記す。所々に現れるSF的思弁。2018/10/07
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