出版社内容情報
フランス・ルネサンスは人間の解放と共に暗澹たる宗教戦争を経なければならなかった.著者(一九〇一―七五)は,激動期を苦悩しつつ生きた地位も職業も異なる十二人の生涯を辿る.本書にこめられた著者のメッセージは「常に自由検討の精神を働かせて根本の精神をたずね続ける」というに他ならない. (解題 清水徹/解説 大江健三郎)
内容説明
フランス・ルネサンス(16世紀)は人間の解放とともに暗澹たる宗教戦争を経なければならなかった。著者は、激動期を苦悩しつつ生きた、地位も職業も異なる12人の生涯をたどる。
目次
ある古典学者の話―ギヨーム・ビュデの場合
ある外科医の話―アンブロワーズ・パレの場合
ある陶工の話―ベルナール・パリッシーの場合
ある宰相の話―ミシェル・ド・ロピタルの場合
ある占星師の話―ミシェル・ド・ノートルダム(ノストラダムス)の場合
ある出版屋の話―エチエンヌ・ドレの場合
ある東洋学者の話―ギヨーム・ポステルの場合
ある王公の話―アンリ4世の場合
ある神学者の話(ミシェル・セルヴェの場合;セバスチヤン・カステリヨンの場合)
ある教祖の話(ジャン・カルヴァンの場合;イグナチウス・デ・ロヨラの場合)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
風に吹かれて
14
ルネサンスの時代は、宗教戦争の時代でもある。12人のルネサンスの人々の列伝の文章中にしばしば「それがキリストにとって何なのか。」という感情のこもった言葉が出てくる。同じ神のもと、カトリック信者とプロテスタント信者は殺し合いをした。いやいや、同じ宗派の中でも姿勢の違い立ち位置の違いを批判し合った。まさに不寛容の時代だった。そんな時代の12人の評伝が終戦後書かれた。「なんと人間は欲がないのだろう。」と渡辺一夫は嘆く。真の人間の欲とは、人間が殺しも殺されもしない寛容で平和な世界を求めることであるはずだからだ。2018/05/11
翔(かける)
11
16世紀フランスの激動期を生きた12人の生涯たどる作品。動脈硬化に陥った教会の支配と弾圧に立ち向かう、ヒューマニストたちの生き様は壮絶です。しれっとノストラダムスもいます。著者が「占星術=インチキ」と決めつけてかかるのでちょっと鼻につきましたが、一つの意見ということで静かに受け止めました。「ある古典学者の話」から連なる目次が、創作意欲を掻き立てますね。2016/05/29
モリータ
8
加藤周一から。「全く、ヴィエ・ド・リラダンの皮肉どおりに、《人類は実に寡欲きわまるもの》ですから、人類にとって甚だ有益なものでも、人類はこれを無用視してしまうくらい無欲なのでしょう。(103頁)」「恐らく、当時の人々の及びもつかぬほどの新知識をポステルが持っていたために―当時の人々の精神の条件となっていたものをポステルが持っていなかったために―換言すれば、当時の人々の共通な偏見を持っていなかったために―異常に讃えられ、異常に罵られたとは言えないでしょうか?(181頁)」2015/03/29
Fumoh
6
フランス・ルネサンスの時代、世を変えるためにそれぞれ戦った十二人の姿を浮かび上がらせました。遠い我が国では、恐らくほとんど名前も知られていないような人も、著者は紹介してくれています。その人について調べてみたくても、日本語の文献が少なく、またあったとしても非常に手に入りにくくなってしまっていて残念です。ひょっとすると歴史全体で見たら、フランス・ルネサンスというのは人気がないのかもしれないですね。また「ルネサンス」というとレオナルドやミケランジェロ、ラファエロといった明るい美術的なイメージが先行しがちですが、2025/02/25
shouyi.
5
若松英輔さんの感想に惹かれ読んだ。ルネサンスというと宗教に縛られていた人々が人間性を取り戻す自由な時代というイメージがあったが、実際は旧教(カトリシズム)と新教(プロスタンティズム)、政治と宗教などの血生臭い勢力争いであったことを知り、心底驚いた。そして、そうした争いの醜さから何も学んでいないことを恐ろしく感じた。2019/07/09