出版社内容情報
叡智の探究者・井筒俊彦の初期の代表作.ギリシアの精神史を,絶対的真理「神秘思想」の展開として捉えた画期的な著作.
井筒 俊彦[イヅツ トシヒコ]
著・文・その他
内容説明
東洋哲学の枠組を大きく変え、世界の思想界に反響を起した、著者自身が「私の無垢なる原点」とする初期の代表作。ディオニュソス神から、ソクラテス以前の哲人達、プラトン、アリストテレス、プロティノスへと続くギリシアの精神史を、人知を超えた「自然神秘主義」の展開として熱誠を込めて説き明かす。
目次
第1部 ギリシア神秘哲学(ソクラテス以前の神秘哲学;プラトンの神秘哲学;アリストテレスの神秘哲学;プロティノスの神秘哲学)
附録 ギリシアの自然神秘主義―希臘哲学の誕生(自然神秘主義の主体;自然神秘主義的体験―絶対否定的肯定;オリュンポスの春翳;知性の黎明;虚妄の神々 ほか)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
89
著者の若かりし頃の作品で、最近岩波文庫で2カ月連続で発売されています(次のは「意味の深みへ」東洋哲学関連)。この作品には父親の影響が強くあらわれているようです。ソクラテス以前のギリシャの哲学者の思想を解説してくれています。しかしながら若いころに書かれているので非常に力が入っている感じで、その後に書かれたものよりの生硬な感じがします。2019/03/17
syaori
64
ギリシア哲学史を概観する本。本書の特徴は、パルメニデスの「存在」など、哲人たちが探求した「真理」は単なる「抽象的概念」ではなく「儼乎たる体験の事実」なのだという立場からプロティノスまでの古代ギリシアの思想を辿ってゆくこと。個人的には、そんな読み方をすることでイデアなどの形而上学的概念をリアリティーをもって把握でき、それをロゴス化しようとする哲人達の言葉も立体的に掴めたように思います。またそのような世界を躍動的かつロジカルに展開する作者の手腕はここでも健在で、ギリシア哲学への興味を大いに掻き立てられました。2020/11/17
nobi
61
飛翔と転落、潑剌と悄然等、落差大きく加速度感ある神秘体験の有り様そのままに、井筒の渾身の著述は視覚的。色彩溢れ場面転換の激しい最新のアニメ映像を見るよう。跳躍し渦巻き切り切られ血が吹き出す…。プラトン、アリストテレス、プロティノスらの脱自的観照体験、その「語れないもの」を「あえて語る営み」。たまたま読んでいた「禅(鈴木大拙著)」では語れないものは語らず代わりに禅問答があった。対して古代ギリシャの哲学者達の深奥へと迫っていく忍苦と迫力。それを読み解く井筒の眼力。出発点は「濛々と立罩める妖気のごときもの」と。2021/11/21
松本直哉
30
プロティノスの一者と魂の合一の説を読むとインド哲学の梵我合一みたいだと思う。著者が神秘哲学の源流とするイオニアすなわち小アジアの自然哲学も、ディオニュソス神話も、考えてみれば東洋起原だった。日本神話のスサノオのように、その粗暴ゆえに放逐され放浪したディオニュソスが、狂乱の信女とともにエクスタシーに達する祭儀が、理性と秩序と明澄のギリシャ文化に与えた衝撃がいかに大きかったか。理性を超越したものへの憧れは東洋との接触によってはじめてギリシャの人々が知ったのかもしれない。2020/09/18
加納恭史
17
エマソンはプラトンからソクラテスの神への畏敬の念やダイモーンから神秘体験を研究したようだが、詳しい解説はない。彼はむしろ詩人で文学者の面が強かった。そこでギリシアのプラトンの神秘哲学をもう少し掘り下げたいと思ったら、深い哲学の専門家を調べるよりない。そこで突き止めたのが、この本「神秘哲学」。これほどの専門家がいたとは衝撃だった。書かれのは昭和二十四年で、私の生まれた翌年だったので更に驚いた。著者井筒俊彦さんは内観つまり観照方が分かるようだ。それこそプラトンからプロティノスに至るギリシア哲学の真髄であった。2025/03/09