出版社内容情報
緊迫した語りが読む者を深く揺さぶる、ノーベル賞作家クッツェー(1940-)が世界的名声を獲得した記念すべき作品。一九八三年刊。
内容説明
土のように優しくなりさえすればいい―内戦の続く南アフリカ、マイケルは手押し車に病気の母親を乗せて、騒乱のケープタウンから内陸の農場をめざす。ひそかに大地を耕し、カボチャを育てて隠れ住み、収容されたキャンプからも逃亡。国家の運命に翻弄されながら、どこまでも自由に生きようとする個人のすがたを描く、ノーベル賞作家の代表傑作。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
241
1983年ブッカー賞受賞。 この物語が書かれた1980年前後の南アフリカは アパルトヘイト体制下であり、検閲を 意識したのか やや抽象的な表現を感じるが、 全編を通して クッツェーの根底を成す「暴力」は健在である。 マイケルKの独白に登場する人々は 無表情で 顔が見えない。突然の不条理・束縛された不自由さに耐えながら、 何かを諦めたかのように 黙々と生きる。 マイケルKが求めたささやかな自由 ..最後は かすかな希望のようなものを 感じる終わり方だった。2017/06/05
のっち♬
144
内戦下の南アフリカ。母の骨を埋葬し農場でカボチャを育てる主人公は収容キャンプから逃亡。西洋の暴力的体制やモラルを懐疑の火で焼き払って再構築する著者の普遍要素抽出が活きた代表作。牢獄モチーフや不思議な時間感覚、強要への抵抗など著者の意識が宿った主人公の視界はカフカを彷彿とさせる。寓意を強調しつつ構図を反転させてみせるII章の語りは特に熱がこもっており「そこへ至る道はきみだけが知っている」と狙ったような台詞も。「キャンプの外」は「何をするにも時間はたっぷりある」—暴力と抑圧の体制下において自由を追求した一冊。2022/04/20
buchipanda3
122
南アフリカ出身の作家による小説。不思議な魅力がある物語だった。端正な文章で綴られたある男の姿は、自由や束縛、人生の意味を問うているかのよう。主人公は口唇裂を抱えるマイケルK。彼には世の理不尽さが次々と降りかかり、辛く苦しい描写が続く。しかしそれは読むうちに、荒々しい否定の強さではなく、穏やかな肯定の強さを表現しているように思えてきた。楽観でもない。誰の理解を受けずとも無垢なる問いを携えて、彼は風と時に身を任せてただ歩み続ける。ただあるべきものを求めて真摯に描かれた語りの強靭さが希望を牽引する、そう思えた。2023/05/28
どんぐり
115
マイケル・Kは母親の遺灰を抱え、大地を耕し、カボチャを育てながら貯水池のある丘に穴を掘り隠れ住んでいる。南アフリカのケープタウン、内戦、農場に来るまでのいきさつ、内戦で戦場となった大地で捕らえられ、フェンスに囲まれたジャッカスドリフ再定住キャンプでの強制労働、そして脱出。内戦のなかにあってひとり自分だけの世界を生きるマイケル・Kの第1章までは実に面白い。第2章、第3章と視点が変わっていくと、なかなか物語に入り込めず読み終える。いつか再再読することにしよう。2017/03/24
nobi
89
アフリカ最南端の、不穏な政情にある国の、恵まれない境遇のマイケル・K。そんな遠い国の見知らぬ男の辛い話を読むのって意味ある?と思い始めてしまうほど。彼の言わば逃避行は、疲労と空腹による無気力と紙一重、ながら荒行に身を投じた僧の身体を酷使した果ての研ぎ澄まされた境地に、彼もまた辿り着いたように見える。同時に殆ど野生人化していても例えばカボチャは薄く切って炙って食するという文化を背負っている。そんな彼を世話する者にぶつける「俺はこの人にとって何なんだって…」っていう言葉は、赤の他人と見ていた私にも強烈だった。2022/07/15