出版社内容情報
独裁者の大統領、将軍、公安のトップ、利権をむさぼる政商――。多彩な登場人物を通して独裁政権下ペルーの陰鬱な政治的・社会的歴史を、実験的手法を駆使してストーリー展開豊かに描く現代ラテンアメリカ文学の傑作。(全二冊)
内容説明
独裁者の大統領、将軍、治安担当者、利権をむさぼる政商―。物語全体に無数の会話が谺する、現代ラテンアメリカ文学の傑作。ペルー社会の複雑な民族関係を背景に織りこみながら、一九四〇年代末から五〇年代にかけてのペルーの陰鬱な政治的・社会的歴史を、ストーリー展開ゆたかに描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
125
リョサについての認識をまた変えられた。彼がテーマとする事柄は多岐に渡るのだが、それがこの作品でさらにひとつ加わった。タイトルにあるカフェで語られるペルーの政変と圧政は、限られた人達の人生に絡めて書かれながらも、ある時代に生きた人達が 、その時代や世界にいかに翻弄されてしまうか、自ら選び取ったようでいながら、そのうねりの中で巻き込まれていたに過ぎないかのような避けえない普遍的な運命を感じざるを得ない。上下巻をまとめて、雑音のないところで読み返し、このペルーに入り込み、そこに居合わせたいと、再読を誓う。2018/09/30
NAO
70
ペルーの人種差別、階級差別は、かなり複雑かつ強固だ。最も上位にいるのが主人公一家のような都会に住む特権階級の白人たちで、その数はペルー総人口の15%にも満たないという。彼らにとっては、独裁者ドン・カヨのような田舎出身の白人も下層民と変わらない。だからこそドン・カヨは成り上がるためには独裁者となるしかなかった。複雑な民族関係。陰惨な政治情勢。腐敗。腐敗は上層部だけにとどまらず、あらゆる階級にはびこっている。そして、主人公の反抗は、彼の思いの通りのものだったのか。なんという苦々しさだろう。2018/11/27
田中
22
政権側の実態は金、名誉、出世。群衆は無知と貧困な仕事。そんな有り様を重層的に描く。「自由間接話法」という希有な文体技法の小説である。それは読み進むにつれてリズム良く響き、その一瞬の胸中が迫ってくる。時制が複雑な文章で判然としない場面もあるが、把握すると真意が得られるようだ。ベルムーデスを取り巻く議員や実業家たちの思惑が権力闘争になる。サンティアーゴは父親が望む将来が約束されたラインにのらず、独自の暮らしをする。父子の確執が渦巻く。アンブローシオの数奇な運命が驚愕の事実を明らかにしていく。至高の名作だ。 2021/08/27
塩崎ツトム
13
終盤に突入するにつれ、ペルー国家の痛烈な断絶が浮き彫りになる。登場人物の今日の暮らしには、社会や人種、出自が延々と付きまとう。登場人物が全員、取り返せない過去への後悔に縛られて、明日が見えない。後悔のない人生はウソだが、リョサはその恐ろしさを結末に向けて一気に畳みかけてくる。サンティアーゴの人生は、そんな運命?からの逃避なのか? それとも彼が求めた通りの、反抗だったのか? 彼の父、ドン・フェルミンはどうだろう。オラーリアは? すべてが安酒場の会話の中に消えていった。マコンドの街が最後、砂に飲まれたように。2018/09/18
ふみふみ
12
下巻は政権暗部の描写がフェードアウトし、其々の人間ドラマに重点が移ります。上巻で気になったドン・フェルミンとアマーリアのその後ですが、もうね、切なすぎますわドン・フェルミンもアマーリアも。物語の主な語り手、サンティアーゴとアンブローシオは全く異なる立場から社会と時代の流れに翻弄された訳ですが、前者が反抗と自虐が入り混じった自滅タイプなのに対し後者は巻き込まれ翻弄された結果の不幸。ラストはやるせない気持ちになりました。2022/02/18
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