出版社内容情報
メキシコの荒涼とした大地にあえぐ農民たちの寡黙な力強さや愛憎、暗い情念の噴出から生じる暴力や欲望を、修辞を排した文体で描く。
内容説明
現代ラテンアメリカ文学における最重要作家フアン・ルルフォ(1917‐86)の傑作短篇集。焼けつくような陽射しが照りつけるメキシコの荒涼とした大地を舞台に、革命前後の騒乱で殺伐とした世界に生きる農民たちの寡黙な力強さや愛憎、暴力や欲望を、修辞を排した喚起力に富む文体で描く。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
102
吹きさらう風の下に広がる不毛の地。そこで照りつく陽の渇きに喘ぎながら無骨に生きる人々の姿を描いた短篇集。どれも短い話だが、余計な飾りのない実直な文章が朴訥な登場人物たちの存在感を研ぎ澄ませ、その者たちの叙情ある思いが胸に刻まれた。特に父親と息子が交わす愛憎の妙味が印象深い。山賊に身を落とし傷ついた息子を背負う老父、人殺しの罰に怯えた父親の末路、憎んだ父親と憎まれた息子の決着。騒擾の世、先の見えぬ日々に憂う中でも、いやだからこそあっけらかんと見せつける粗野な人間味ある欲望と家族への情感にリアルな生を感じた。2024/04/13
藤月はな(灯れ松明の火)
92
初めて『ペドロ・パラモ』を読んだ時は衝撃的だった。まるで谺していく亡霊たちの声が自分の中を通り抜けていきながらも一部が留まるような未知の感覚に襲われたからだ。それから7年余り。絶版となっていたフアン・ルルフォの短編集がやっと復刊しました。目出度い!抜け出せない貧しさと抜け出すための悪事から逃れられない。成熟していく身体に付随する忌まわしい予感、家族への疎ましさと愛情、生きながらにして亡霊と化しているかのような人物、通り過ぎていく弁明と容赦ない死に始終、眩暈にも似た陶酔に震える。2018/07/11
HANA
67
いや、これは凄い。「おれたちは貧しいんだ」「殺さねえでくれ」と直接的な題名。内容もシンプルさに相応しく、乾いた文体で貧しさと荒涼と暴力が語られていく。メキシコの熱砂が吹き荒ぶ荒れた大地で、死体が腐ることなく乾き崩れていくのを見せつけられているような。人間苦が積み上げられていくような「おれたちは貧しいんだ」や「犬の声は聞こえんか」「殺さねえでくれ」がまずは印象に残るが、一方で「アナクレト・モローネス」の様な話もあるので本当に一筋縄ではいかない。人間の有様というものがその文体でもって心に刻まれるような一冊。2019/04/28
こばまり
53
言葉を削ぐはナイフを研ぐに似て。もはや古典の趣があり、あの浮わついた80年代に作家が存命であったことが不思議に思えるほどだ。2019/05/06
Vakira
46
世界で最も読まれているメキシコの作家とのこと。メキシコと聞くとまず思い出すのがジョン・ランディス監督の「サボテン・ブラザース」1916年のメキシコ、盗賊集団に襲われているメキシコの小さな村では用心棒を募るため、村長の娘を町へ送り出す。この娘さん町に行ってTVを見る。ヒーローを発見。娘の依頼を受けた俳優3人はてっきり次の映画の話だと勘違いしてメキシコの小さな村に行き盗賊集団と戦うはめに・・・コメディ&アクション物語でした。でこの物語、17の短編集。普通に貧困生活、坦々と人は死ぬ、But死をも気にしない生命力2018/08/07