出版社内容情報
馬鹿なのかみせかけなのか,おだやかな目をした一見愚直そのものの一人の男.チェコ民衆の抵抗精神が生んだこの一人の男にはオーストリー・ハンガリー帝国の権力も権威も遂に歯が立たなかった.年移り社会は変わっても,この権力に対する抵抗精神のシンボルは民衆の心に生き続けている.本文庫版は最も插絵の多い版になった.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
105
兵士になったシュベイクは、後方から前線へ。向かうはウィーン。敵はロシア。この第一次世界大戦の時代のチェコは、オーストリアに属してボヘミア王国と呼ばれていたようだ。ここでいう前線や向かう敵がなぜこうなるのか知識不足でよくわからないのだが、問題はそこではなく、チェコ系とハンガリー系、ドイツ系間の軋轢などからの内部的なもので、それにシュベイクも翻弄されて忙しそうだ。命のかかった戦争なのに相変わらずその重大さを理解していないようだが、なかなかの奮闘ぶりである。2016/12/17
NAO
61
ルカーシ中尉とともに前線に向かうも、列車に乗り遅れてしまうシュヴェイク。彼の彷徨や巻き込まれた乱闘といったドタバタの中で、チェコ系、ハンガリー系、ドイツ系相互の民族間の複雑な反目が、巧みに描き出されていく。このなかなかややこしい状況が生み出す問題は、現地の人々にとっては、本当に深刻なものだったに違いない。あまりにも深刻だったからこそ、一向に深刻に見えないシュヴェイクのぼんやりとした行動や愚にもつかないおしゃべりの連発で笑い飛ばすしかなかったのだろうか。2018/07/03
syota
24
第2巻はシュヴェイクが第一線部隊に配属され、戦地に向けて出発するところまで。上官とはぐれて彷徨したり、乱闘に巻き込まれたりのドタバタ劇が多く、第1巻のような痛烈な風刺は控えめだ。それでも、チェコ人の離反を恐れるオーストリア政府のあせりや、ドイツ系住民とチェコ人、ハンガリー人相互の反目など、多民族国家の末期症状が具体的に描写されていて、これでは戦争になど勝てるわけがない、と思わせる。本筋から脱線したおしゃべりの頻発は、作品の幅を広げている反面、緊張感が削がれるときもあって、諸刃の剣といった趣。[G1000]2016/09/20
Nobuko Hashimoto
15
前線に向かうシュヴェイク。相変わらず適切なんだかわからない与太話で上官を煙に巻いてうまく切り抜けていく。土地勘がない読者には状況がややわかりにくい。また、長年の支配者であるドイツ人と被支配民族であるチェコ人との関係だけでなく、ハンガリー人との穏やかならざる敵対心がクローズアップされて、少しだけ緊張感が上がった感じ。それにしてもいいかげんな軍隊模様。もちろん誇張はあるだろうが、そう描きたくなるくらい非効率で俗悪で道理や筋の通らないことに満ちていたのだろうなあ。それを笑いに転化するこの文才、素晴らしい。2017/01/17
秋良
10
【G1000】舞台はプラハ市街から前線へ。すっとぼけたシュヴェイクの行動によって展開される、兵士たちの厭戦気分やグダグダの軍隊模様。WW IIで日本は大負けに負けたけど、実は戦争に勝つのはかなり運の要素もあるのでは…ってくらい情報伝達ができてない。誇張はあっても虚構ではないと思えるのは、セリーンの作品でも似た光景を見たから。更に透けて見えるチェコ・オーストリア・ハンガリー・ドイツの民族的な対立感情。多民族国家をまとめる難しさや限界、今に通じる問題の萌芽はこの頃既にあったんだな。2022/08/15
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