出版社内容情報
前篇の舞台は16,7世紀スペインの片田舎.そこでは,実は何ひとつ非日常的なことは起っていない.ドン・キホーテの狂気が気だるく弛緩した田舎の現実を響き高く勇壮な現実に変え,目覚ましい「冒険」を現出させる.
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
348
この巻の最後はキホーテとドゥルシネアの墓碑銘で幕を閉じる。これは、おそらく次々と新しい人物たちを登場させ、それによって物語に膨らみを持たせ、単線化を回避させたのだろうが、逆にはかえって終止がつかなくなったということでもあるのだろう。そこで一旦はキホーテの遍歴を終えて、再起を期すことに。前篇のキホーテは、アナクロニズムを一身に背負いつつ、いわば「壮大」な物語を生きていた。そしてサンチョは、そんな彼を地上に繋ぎとめる役割を果たしていたのである。相反する彼らが表象するのは、人間の持つ宿命的な「哀しさ」だろうか。2016/04/24
扉のこちら側
94
初読。2015年1144冊め。【78-3/G1000】これでもかとばかりにたっぷりの挿話が、作中人物と読者に奇妙な一体感を抱かせる。途中で何度「自分は何の物語を読んでいたっけ? ドン・キホーテだよね?」と思ったことか。後編がよりおもしろいと聞いているのでそちらも楽しみ。【第2回G1000チャレンジ】2015/11/21
藤月はな(灯れ松明の火)
90
ドン・キホーテがやらかしたことがのっぴきならない事態までなった為、自宅へ誘導し、正気に戻す為の大芝居がここで打って出られる。常識の世界にいる村人がその狂気を治す為により広大な法螺を構築する逆転、そして囚われたドン・キホーテが「あれ?これは自分が好み、こうなりたいと憧れて読んだ騎士物語とは違うぞ?」と認識しているのがメタで面白い。一方でタオルケット上げの恨みは忘れじも「主人命!」が加速しているサンチョの別の意味での狂いっぷりが光っています。特に捕虜の物語はセルバンテス自身の体験を書き綴っているので必見です。2021/07/16
ちゅんさん
57
みんなほんとよく喋るしドタバタ感は継続中、そしてみんなドン・キホーテを馬鹿にして笑いまくる(でも気をつけないと槍で頭割られます)。なんか可哀想な気もするけど司祭と床屋は彼のことを思い村へ連れて帰ろうとしてくれている。サンチョの主人に対する心酔ぶりが増してるような気がするなぁ、彼も狂人の領域へ。それにしても出てくる女性たちがほとんど絶世の美女で一度拝んでみたい。"捕虜の話"がセルバンテスの実体験だったとは…さあ、後篇へ 2021/02/09
chanvesa
57
中学1年の時に読んでみたものの、ドン・キホーテがかわいそうで第1巻の途中まで読んでやめてしまった。今回は前半まで読んで、途中のぼこぼこ具合は面白くナンセンスギャグ的な雰囲気も面白いと思えたけど、この終わり方は複雑。司祭や床屋たちはみんなで正常の世界に戻そうとするし、それが当然なんだけど、ドン・キホーテ当人にとっては魔法の力で正常の世界に連れ戻されるという反則技を用いられ、療養生活で「毒」を抜かれていくのだろうな、生き生きさは喪われていくのだろうな、と。しかしいったい自分はどっちのスタンスに立っているのか。2016/02/07