内容説明
時は中世、十字軍の時代―。神聖ローマ皇帝フリードリヒ・バルバロッサに気に入られて養子となった農民の子バウドリーノが語りだす数奇な生涯とは…。言語の才に恵まれ、語る嘘がことごとく真実となってしまうバウドリーノの、西洋と東洋をまたにかけた大冒険がはじまる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kircheis
292
★★★☆☆ 第4回十字軍遠征により陥落したコンスタンティノープルにて、バウドリーノはニケタスに彼の数奇な人生を語る。 エーコ作品ではおなじみの中世ヨーロッパを舞台に、皇帝フリードリヒをはじめ実在の人物や史実を絡めて描いた壮大なファンタジーである。 読む前の段階では『前日島』と似た雰囲気を感じ、とっ散らかった作品なのではないかと心配していたが、バウドリーノが基本的に好人物(欠点もあるが)であるうえ、史実とのリンク具合が絶妙で上巻は結構楽しめた。 今後物語が荒唐無稽な展開に陥らないことを祈りつつ下巻へ…2022/08/14
NAO
79
司祭ヨハネの国というありそうでなさそうな国へと旅立つパウドリーノ。だからといって、話は、まったくのフィクションではない。何度もイタリアに遠征してきたフリードリヒ・バルバロッサは実在の人物だし、彼に対抗するためにアレッサンドリアという都市が造られたのも本当の話。事実を織りまぜながらの話ながら、このバウドリーノという主人公がどこまでもいかがわしい。口を開けば嘘八百。何から何まで捏造していくこの男の行く先に、何が待っているのか。2020/10/24
syaori
65
始まりは第4回十字軍によるコンスタンティノープル攻略のさなか。東ローマ皇帝書記官ニケタスはバウドリーノに危機を救われ、神聖ローマ皇帝フリードリヒの養子だったという彼の半生を聞くことに。彼が語るのは、司祭ヨハネの王国を様々な断片から「発明」してゆく過程。教皇や、反抗と恭順をくり返す諸都市を凌ぐ権力を養父に付与するため、絶望的な恋からの逃避のために。東方の三賢王、地上楽園、聖杯。権力と自治を巡る闘争が続く世界を越えて神秘の王国は”発見”できるのか。ニケタスはその物語に「意味を与える」ことができるのか?下巻へ。2019/04/24
えりか
61
文庫になって良かった。面白い。才知に長けたバウドリーノは嘘や屁理屈のようなもので逆境を切り抜ける。故郷を崩壊させずに、かつ養父の尊厳を保たなければならない。とある方法で矛盾するこの二つを守ったバウドリーノはお見事。賢いだけでなく、クスリのような緑の蜜を舐めて幻想を見たり、苦しい恋に悩んだり、「こんちくしょう」と怒りを顕に拳でぶん殴ってしまう、人間味溢れるバウドリーノさん。さあ彼は司祭ヨハネとその王国を見つけだすことができるのだろうか。下巻へ。2017/04/19
ころこ
43
「ニケタスは命運尽きたと確信し、自分を失うことになる家族を哀れみながら、生前に犯した罪の許しを全能の神に請うた。そのときだった、聖ソフィア大聖堂にバウドリーノが入ってきたのは。」映画のシーンのような展開であり、表現が素直なのが特徴だ。この後、脱出中にふたりの会話が続き、状況が見えてきて物語のフレームが確定してくる。彼の言語に関する卓越した能力は養父・皇帝フリードリヒにも影響力を持つ。外国語を使いこなし恋文や詩を書くことで独特の政治力を発揮する。主人公の成長と共に仲間が増えていく冒険譚であり、近代だったらビ2025/03/02