内容説明
都会で働く一六歳のジーニアと一九歳のアメーリア。二人の女の孤独な青春を描いた本書は、ファシズム体制下の一九四〇年、著者三一歳の作品。四九年にようやく刊行され、翌年イタリア最高の文学賞ストレーガ賞を受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
261
タイトルは夏を謳いあげるのだが、読了後に回想されるのは、狭いアパートの1室で毛布にくるまったり、ストーヴを燃やしたりする寒そうなシーンばかりだ。そして、それはまた即座にプッチーニの『ラ・ボエーム』を想起させる。あるいは、この小説に着想を与えたかも知れない。夏の輝きが感じられないのは、ジーニアもアメーリアもともに都会の孤独の中にいて、愛が得られないからだ。男たちは所詮ボヘミアンである。また、イタリアという先入観からか、心象を含めた情景は後年のネオ・レアリスモを想わせ、モノクロームの映像までが浮かんでくる。2015/02/27
buchipanda3
102
「あのころはいつもお祭りだった…もう夢中になれたし、何もかも美しくて」。戦時の頃、イタリアの都市に住む二人の未成年の女性が大人へと踏み込もうとする姿が描かれる。その心情描写が繊細ながら余計な飾り気のないもので、むしろ確かな重みのある思いとして胸に響いてきたのがとても印象深かった。ジーニアは三歳年長のアメーリアの姿を追う。自分と彼女を比べて一喜一憂するが、自分の未来と対峙しているかのように心を乱すところが印象的。でも最後に二人が言い合った言葉、それは何もかも美しいと思える人生の季節を越える意味を感じさせた。2023/08/28
どんぐり
79
イタリアの詩人で作家のパヴェーゼが1940年に遺した作品。刊行は1949年。翌年イタリアの文学賞ストレーガ賞を受賞。その2か月後、彼は服薬自殺を遂げている。本書は16歳のジーニアが年上のやや成熟した女友だちアメーリアにひかれて、少女から女へと変貌していく青春小説。ジーニアは、画家のモデルの仕事をしているアメーリアに、「画家があなたを画いているところを見たいの。まだ色を混ぜているところを見たことがないの、それはきっと美しいにちがいない」と頼み込み、画家のグィードと出会う。画家のアトリエに足しげく通うジーニア2015/08/06
zirou1984
57
孤独とは一人の心の中ではなく二人の距離の間に生まれるものであり、時に距離に反比例して大きくなることもあるものだ。親しい人であれ、大切にしたい人であれ、近づこうとすればする程大きくなるその感覚には誰もが覚えのあるものだろう。本書が祭り日和な夏の喧騒から始まりながら、絶えず孤独の諦観が透けて見えてくるようなひとつの恋の物語は、無垢な少女がそんな孤独を受け入れ独りの女として羽化する瞬間を描き切っている。平易かつ明瞭ながら、目を離すことのできない危うさや繊細さを損なうことのない文章と訳文が本当に素晴らしい。2014/08/26
NAO
54
周囲の少女たちがいつの間にか大人へと変わっていく中で、自分一人だけが取り残されているように思えてならない少女の孤独と焦り。まだ知らない大人の世界への好奇心は、年上の女友だちを通して高まり、少女は大人に成長する。ファシズム政権下の危うい世情と閉塞感の中にあってさえ、年ごろの少女の前には「美しい夏」が広がっているが、その「美しい夏」は、永遠であって、永遠ではない。だからこそグィードは少女たちの「美しい夏」を描きとめることで永遠のものとしたいのだろうけれど、彼のような男に美を描き切れるのか。2016/07/31