出版社内容情報
午前五時,ラーゲリ(収容所)ではいつものように起床の鐘がなった.また長い一日がはじまるのだ.――身をもって体験したスターリン時代のラーゲリを舞台に作者は異常な状況下で人々が露わにする多様な性格と行動を描き,人間性の圧殺者を正視し告発する.強靭なヒューマニズムの精神と高度の芸術的技量に裏うちされた作品.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Hirouch
6
他人を基準に自らの生活を評価することはしないに越したことはないですが、そうは言ってもついやってしまうものです。あまりに忙しい今の仕事から精神的にだけでも逃げ出したいと、自分より過酷な生活をしている本を読んでみようと手に取りました。時代も場所も全く違いますが、ソ連の収容所であれば間違いないはずでした。結果として自分の現実から逃避するという意味では完璧な小説でした。けれど上述した意図においてではなくです。そう、純粋に小説を楽しむことで忙しい生活を忘れることができたのです。愛すべき登場人物の面々に感謝します。 2016/05/05
T. Tokunaga
5
「そのひしゃく一杯が今の彼には娑婆の自由よりも、それまでの全生涯よりも、これからさきの全生涯よりも貴重なのだ」(p150) 。未来と過去を奪われたラーゲリの囚人たちは、一見、ある種のブルシット・ジョブを延々と与えられながら、淡々と「現在」を生き続けるという瞑想的境地に至っているようにみえる。しかしそれは、「ここの営巣十日というのは、まともに十日いれられていたら、そいつはもう生涯からだがだめになる」(p185) という恐怖に裏打ちされた、仮初の安心感であった。その残酷さを、いかにも淡白に描いている。2025/01/01
juunty
4
作者のソルジェニーツィンが自分の収容所体験をもとに書いた作品。極寒の収容所の生活がリアルに表現される。囚人が困難な環境に置かれるのは当然としても、その囚人を管理する兵士ですら極寒の環境に苦しめられる。新潮文庫版よりも訳が若干古めかしいが、こちらのほうが年代が近い気がする。より砕けだ表現も多かった。2021/11/29
けい
2
ソヴィエトの強制収容所「ラーゲリ」で過ごす男の1日を綴った作品。 ラーゲリの中には多様な人間がいるが、物資を沢山持つ者も上手く立ち回る者も神に祈る者も乞食も統率者も新参者もみんな何とか生き延びるために一生懸命だ。出し抜き、協力し、情けをかけ、寝床で一息つく。それは我々の生きる世界とあまり変わらない。 シューホフの視点で語られるラーゲリでの生活は苦しく厳しいものだが、それは日常であり悲壮感は感じられない。長い歳月は人を諦めさせて異常を日常に変えてしまう。でも自分の人生はこれよりもマシだと言い切れるだろうか。2022/04/22
RetuTanaka
2
こういう生き方はよい。2021/07/07
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