内容説明
日本におけるチェーホフを考えるとき、神西清(1903‐1957)を抜きにしては語れない。短篇の名手の逸品を翻訳の名手がてがけた9篇、これに訳者のチェーホフ論2篇を加えた“神西清のチェーホフ”とも言うべきアンソロジー。表題作の他に、「嫁入り支度」「かき」「少年たち」「アリアドナ」等を収録。
著者等紹介
神西清[ジンザイキヨシ]
1903‐1957(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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やいっち
84
チェーホフの小説は勿論、楽しんだけど、訳者の神西清のチェーホフ論考もよかった。そう、チェーホフを読み始めた頃は、ある意味、神西清の訳業の成果を享受してたんだなーって、今更ながら気付かされました。 「ねむい」……睡眠障害に苦しんできた我輩には、身につまされる物語でもあった。2016/12/17
syota
30
作家にしてチェーホフ翻訳の第一人者だった神西清訳の短編9編に、チェーホフに関する神西渾身の論考2編を収録。どの短編も当時の「ロシア生活の泥沼」を淡々と、時にはユーモアさえ交えて描いている。しかしこのユーモアはあまりに苦い。登場人物を突き放し、高みから眺めた氷のような笑いだ。その中で唯一異彩を放っているのが、犬を主役にした『カシタンカ』。迷子の(多分)子犬が見知らぬ人間や動物たちと出会い、成長していく姿は、救いのない作品群の中でひときわ心にしみる。また、巻末の『チェーホフ序説』は考察の広さ、深さが圧巻。2019/10/11
にゃおんある
30
ねむい、燈明がまたたく。みどりの灯影がオルゴールのように動き出し、眠気を誘うダンスをする。子守娘のワーリカさんのシナプスがまだらな信号を送り、眠れ眠れと囃し立てる。赤子を寝かしつけるのだから仕方がない。父親が危篤で死んでしまうのに理不尽な指令や暴力がくだる。同情や斟酌もない、無抗力な眠気と怒号があるのみ。だけど木のようになったこめかみを押さえながらにっこりするときがある。その理由は判らない。生きる邪魔をするもの、生きあぐねる悪魔をついに発見する。やがてオルゴールが鳴り止み彼女は泥のように眠る、幸せそうに…2018/06/26
長谷川透
28
初チェーホフ。どの短編も比較的短く文章の密度も濃くないので肩に力を入れず読めるのがよい。書き出しにしても、のほほんとした感じのものが多い。でも油断は禁物。表題作の『カシタンカ』は犬を主人公にしたドタバタ劇で「ちょっといい話」の類であるが、もう片方の『ねむい』は至高のブラックユーモア小説とも言っていいくらいで、冒頭の子守唄の、のほほんさからは想像していなかったクライマックスにはノックアウトしてしまった。集英社や光文社から新訳も出ているようだし岩波文庫や新潮文庫にも多くの短篇集があるようなの是非手に取りたい。2012/07/14
藤月はな(灯れ松明の火)
24
「嫁入り支度」は時と現実の無常を感じ、「ねむい」に関しては、五月蠅い子供に対して母親、および周りの人は誰もが抱くだろう身近な感情を描いていたので「自分が子どもだったらそうなっていたかもしれない」という恐れと世間の「子どもを蔑ろにしてはいけない」という建前に舌を出しつつも知られては弾かれる思いを見透かれてドキッとしつつも嗜虐心が満たされました。2012/07/19